第592w号 鮎沢さん(46)「季節の色23」:朽葉色
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■ 1.巻頭エッセイ:
鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色 Vol.23
≪【朽葉色】くちばいろ≫ (2015,11/4)
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朝晩肌寒くなり、セータが欠かせなくなりました。
彩りの紅葉も地面に落ちて、土へと還っていきます。
木々を彩る色だけではなく、その葉が落ちて、朽ちていく、その色
の変化にまで心を配る日本人の心が、色の名前にも現れています。
「朽葉四十八色」
日本人の感受性のすごさを見る思いです。
日本食は、季節を味わいます。
味だけではなく、食器の彩りや形も、四季折々のものが用意され、
その盛りつけにも季節の自然が反映されています。
焦げ茶色の枯れた大きな朴葉の上に、黄色いイチョウの形にくりぬ
いて彩られたカマボコに、松葉には銀杏の実が刺してあります。
そして、栗。
栗はイガグリに似せて、その栗のトゲも、そうめんを揚げてイガに
装い、それもまた食べることができるようになっています。
そのような盛りつけを見ているだけでも、季節を愛でる日本人の心
が伝わってきます。
盛りつけにあった「焦げ茶色の枯れた大きな朴葉」が、まさに「濃
朽葉色」だったのだと、鮎沢玲子さんのこの文章を見て、発見しま
した。
それでは、鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色 Vol.23≪【朽葉
色】くちばいろ≫を、どうぞお楽しみください。
尚 記
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≪【朽葉色】くちばいろ≫
今年の秋も、あちこちから紅葉の便りが届きます。
みなさんは今年、紅葉の景色を楽しまれましたか?
南の方では、まだまだこれからが見ごろ・・・というところもある
でしょうね。
私の住む栃木県では、標高が高い奥日光にはじまり、鬼怒川と塩原
温泉を結ぶ日塩もみじライン、茶臼岳を望む那須高原など、紅葉の
名所にはことかきません。
日本には「紅葉色」(もみじいろ)という色名があります。
楓の葉が紅葉したような鮮やかな濃い紅色です。
一方、葉が地面に落ちて、朽ちていくときの色を表現しているのが
「朽葉色」です。
平安時代から用いられていた色名で、衣類の色として好まれ、多く
のバリエーションがあります。
青朽葉(あおくちば)、黄朽葉(きくちば)、赤朽葉(あかくちば)
、薄朽葉(うすくちば)、濃朽葉(こきくちば)など・・・まるで
早口言葉のようですが、色の変化によって、ついたたくさんの名前
があります。
その数の多さから「朽葉四十八色」と言われるほどです。
紅葉色はひとつの名前だけなのに、昔の人の朽葉色に対する思い入
れの深さが感じられます。
一見、地味な色ですが、今の時代でも和装には使いやすいですし、
なにより自然の葉の色を再現するのは、植物染料の得意技なのです。
「朽葉色」とは、日本独特の「もののあはれ」から生まれた、日本
らしい名前だと感じます。
「もののあはれ」とは明るく華々しいものより、はかないものや、
消えゆくものに目を向け、魅力的だと感じること。
そんな繊細で慈悲のある眼差しが、朽葉色のバリエーションを生み
出したのではないでしょうか。
落葉でも枯葉でもなく「朽葉」というところに、日本人特有のもの
の見方が感じられます。
「朽ちる」は現象としては腐ることと同じですが、この言葉には、
自主的に生命活動を終えるという印象があります。
地面に落ちた葉にも心があり、命を終えることを自らの意思で受け
入れているような、そんな印象です。
秋の野山は錦織のように色を変えて、毎年、私たちの目を楽しませ
てくれますが、その役目を終えた葉は、ひっそりと土に還っていき
ます。
翌年の新芽を育てる養分へと転生していくのです。
落ち葉の絨毯の上を歩くと、その柔らかさと温かさを感じて、自然
の持つ受容性の深さに触れることができるかもしれません。
(※こちらで画像とともに掲載をしています。
http://ameblo.jp/aurasoma-unity/entry-12091720837.html )
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鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
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