第414w号 鮎沢玲子さん(7)「日本の色」:若苗色
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■ 1.巻頭エッセイ:鮎沢玲子さんの「日本の色」Vol.7 (2012,06/06)
≪【 若 苗 色 】わかなえいろ≫
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今週の巻頭エッセイは、鮎沢玲子さんの「日本の色」Vol.7
≪【 若 苗 色 】わかなえいろ≫
日本の色には自然からの色の命名が多いようですね。
それだけ日本人の感覚が自然と密接に関連しているということなの
でしょう。
日本料理なども季節をあしらった工夫が随所に見られます。
季節の味はもちろんのこと、その季節の自然が感じられる盛りつけ
であったり、器であったり、自然を味わうことのなかに、料理の味
わいがあるかのようです。
日本人の感受性は、この四季折々の自然に育てられてきたとも言え
るでしょう。
四季の自然の変化や寒暖の差があるからこそ、その季節通りに作物
をケアしなければ育ちません。日本人が勤勉で、時間に正確で、納
期を守ることで有名なのもそういうところから来ているのかもしれ
ません。
バリのように一年に三度もお米が取れる気候だと、いつ稲を植えて
も育つので勤勉である必要もなく、時間に正確である必要もありま
せん。一年中果物や作物がまわりにはあるのですから。
南洋の人々がおおらかでのんびりしているのもうなづけます。
四季折々の変化があるからこそ、その変化を感じ取る感受性も育ち
ます。
砂漠であったり、インドの夏の乾季ような過酷な風土だと、繊細な
感覚でいることは耐えられません。自然と闘うような気性や考え方
になってしまうでしょう。
暑い気候だと味覚もとてもスパイシーなものであったりします。
インド人のガイドに聞いた話だと、日本に来て味がわかるのに一週
間かかったとのことです。そういう味覚が発達していないのです。
「日本は自然の恵みのなかに生かされている」ということを、イン
ドにしばらく滞在して、日本に帰国したときに強く感じました。
それほど自然に恵まれ、育まれてきている風土を持ちながら、日本
人は自然を破壊し、東京をはじめとする大都市では自然がなくなっ
てしまっています。
あまりにも自然を当たり前のように思ってしまっているのかもしれ
ません。
アスファルトとコンクリート、ビルに囲まれた生活のなかでは、そ
のなかで育った子供たちは、自然の感受性というのをどのように育
むことができるのでしょうか。
季節の折々の田園風景があるからこそ、その苗の色の変化とともに、
その色を愛でる感受性も育つのだと思います。
【 若 苗 色 】わかなえいろを、その風景とともに味わうこと
のできる自然がを失ってしまうと、このような色やそれを感じる感
受性が日本から消えてしまうことになってしまいます。
日本人の感受性をもたらしてくれている、この自然を大切にしたい
ものですね。
鮎沢玲子さんの「日本の色」を読みながら、そんなことを考えてし
まいました。
それでは、鮎沢玲子さんの「日本の色」Vol.7
≪【 若 苗 色 】わかなえいろ≫ をお楽しみください。
尚 記
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「若苗色」とは田植えの頃の苗を思わせる、淡い黄緑色を指します。
同じような系統では、「若草色」「若菜色」「若緑」などの色名が
あります。若いという言葉が、春から初夏に伸びる草木の瑞々しさ
を表現しています。
日本の「旧暦」を調べてみると、春夏秋冬をそれぞれ六分割して、
約十五日ずつのセクターに分けた「二十四節気」というものがあり
ます。これは日付だけではわからない実際の季節感を知らせ、人々
の生活の目安になるものでした。
二十四節気のうち、立春や立秋といった季節の区切りとなるものは、
今でもよく知られています。
夏至のひとつ前の節気は「芒種」(ぼうしゅ)で、今年で言えば、新
暦(西暦・グレゴリオ暦)の6月5日からの十六日間にあたります。
芒の字は、稲や麦などの穀類を意味します。
麦はこの時期に黄色く実り、麦秋を迎えます。
苗代では苗が育ち、田植えの準備が進んでいきます。
芒種とは実った麦を収穫して、さらに稲を植えることを指している
のです。
数年前のこと、インドネシアのバリ島に行く機会がありました。
泊まった部屋の窓の下には、美しい棚田が一面に広がっていました。
どうやら早朝のまだ暗いうちから、人の手で田植えをしているよう
です。朝起きて外を見るたびに、黄緑色の部分が少しずつ広がって
いるのです。
雨季だったこともあり、田植えが済んだところは日ごとに苗が育ち、
色が濃くなっていくようです。
現地のガイドの話によると、バリでは一年に三回も米が収穫できる
そうです。バリは一見のんびりしているようだけれど、意外に人も
風土も生産性が高いのでした。
若苗色のような明るい黄緑色には、新しいことにチャレンジする気
持ちを刺激する働きがあります。
この色を見ていると、水と大地のエネルギーを吸収して、まっすぐ
伸びていく苗のような気持ちになります。降りしきる雨さえも、成
長に必要なプロセスだと思えるかもしれません。
オーラソーマにおいて「若苗色」に相当する色は、ペールオリーブ
グリーンでしょう。
時間と労力がかかっても、少しずつでも前へ前へと進んでいくプロ
セスの色。
雨に打たれても風に吹かれても、確実に成長していく植物のような
力を思い起こさせてくれる色です。
そこにはたくさんの希望の種が宿っています。
(※こちらで画像付きで掲載をしています。
http://ameblo.jp/aurasoma-unity/entry-11270308596.html )
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鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。