色と心理の働きを知って 人生を豊かに生きる

色彩心理学

 

1.私たちは色彩の波の中で生きている

①私たちは色から影響を受けている?

世界は色彩に溢れていますが、
私たちはこの色から無意識のうちに
大きな影響を受けているとも言われます。

ふだん色からの影響など意識しませんが、
それは本当のことなのでしょうか?

ニコラス・K・ハンフリーという
イギリスの心理学者がいます。

ニコラス・ハンフリー

トンネルでつないだ青い照明の部屋と
赤い照明の部屋を用意して、
そこにサルを入れてどちらの部屋にでも
自由に留まれるようにする実験を行ないました。

赤い空間

結果はどうなったか?
サルは常に好んで青い部屋に留まったそうです。
青い照明の部屋のほうが安らいだようです。

青い水

これは猿の実験ですが、
この赤と青の色の違いが人間の時間感覚にも
影響を及ぼすことはよく知られています。

時計のない2つの部屋に1人づつ入ってもらい、
「1時間経った」と思った時点で
外に出てもらうという実験をした方がいます。

赤の部屋に入った人は40分で、

赤い部屋

青の部屋に入った人は1時間半で出てきたそうです。

青い部屋

赤い色の部屋では実際の時間より長く感じ、
青い色の部屋では実際の時間より短く感じたわけです。

この実験だけでは厳密ではなさそうですが、
部屋の色が時間感覚に影響することは
現在では広く知られていて、
社会のさまざまな場面で応用されています。

私たちが気づかぬうちに
色の影響を受けているのは間違いなさそうです。

②私たちは色の世界に反応して生きている

人間が外界から受け取る情報の割合は、
視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、
味覚は1%といわれています。

五感の優位性

画像出典:論文「おいしいの視覚化」サレジオ工業高等学校デザイン学科価値創造研究室

私たちはこの眼から得られる情報で
外界の明るさを知り(明暗覚)、
物の形を知り(形態覚)、
色を知り(色覚)、動きを知り(運動覚)
自分が対応する外界のほぼすべての様子を
知覚しているのです。

「色覚」はこの「視覚」のなかで
色彩を感知するだけの機能とも見えます。

ところがじつは人間の視覚は
距離に関する直接的情報を取得できません。

直接距離を感じているコウモリなどと違って、
コウモリ
対象物との距離を直接は感じられません。

網膜から入力される情報は2次元なので、
2次元の情報から3次元の画像を作るために
脳が距離に関する情報を割り出しているのです。

けっきょく色以外の視覚情報も、
実際は色覚から得られた情報にもとづいて
脳の中で再構成されていると考えられます。

どうやら私たちは
色彩の洪水とも言える世界の中で
大部分その色の刺激に反応して生きている
言って間違いないようです。

③色を見ているのは眼だけではない?

人間の色の知覚は、
網膜にあるオプシンというタンパク質と
レチナールという色素の組み合わせで
実現されているのだそうです。

オプシンとレチナール
画像出典:ウィキメディア・コモンズ

ところがこのオプシンは
皮膚でも存在が確認されているらしいのです。

東京大学大学院創生科学研究科「視覚の進化」で
視覚研究の最先端を担う河村正二先生は、
「見える」ということについて
こんなことをおっしゃっています。

視物質は、オプシンと呼ばれるタンパク質と、
 レチナールと呼ばれる色素の組み合わせ
 でできているんです。
 これは、生命の歴史の中で、
 光を感じる仕組みとして、かなり普遍的なものです」

「タコやカメレオンなどの動物は、
 周りの環境に合わせて皮膚の色を変えます。

カメレオン

 それも『目』→『脳』→『皮膚』というルートではなく、
 皮膚自体が周りの色を感知して環境に同化します。
 
 人も皮膚自体が何らかの形で可視光(色)を
 感知していてもおかしくありません
 https://nkbp.jp/3J4cgJp

また人間は目隠しをしていても、
赤い部屋と青い部屋では脈拍や血圧に変化が出る
という実験報告があるそうです。

どうやら人間は眼からだけでなく、
皮膚からも色の情報を得ているようです。

④ヘレンケラー女史の証言

盲聾唖の三重苦の奇跡の人
ヘレンケラー女史はその著『私の生涯』のなかで
こんなふうに書かれています。

『私の生涯』

「私は、太陽が葉から葉へ照り返す
 光を見ることができました。
 こうして──見えないものの実証を
 とらえることができるようになりました。」

「私はスカーレットとクリムソンの違いが分かります。
 ──私は色には濃淡があることも、
 濃淡がどういうことであるかも分かります。
 匂いや味にも濃淡があるからです。
 太陽にかざすと
 あなたには色は退色して見えるように、
 私にとっても香は失せます。
 ──連想の力が私に、
 白の高尚な混ざり気のないイメージとか、
 緑の生命力とか、
 赤から愛や恥じらいを連想させます。
 つまり、
 私の中に色がないということは考えられません」

視覚も聴覚も失ったヘレン・ケラー女史が
触覚と嗅覚と味覚で世界を感じていたことは
間違いありません。

この引用箇所の中で女史は
ご自分の色の感覚を「匂いや味」の感覚からの
連想にもとづくものと推論されています。

サリバン先生の指導によって
まわりの世界への連想を深化させた女史が
嗅覚と味覚の能力を拡大したことは確かでしょう。

サリバン先生の指文字をたどる7歳のヘレン

しかし彼女がただ連想の世界を
拡大しただけではない可能性もあります。

もしかしたら女史は皮膚感覚で
実際に色を感じていたのかもしれませんね。

ヘレンケラー女史が緑や赤の色の違いだけでなく
その濃淡まで識別しているとおっしゃるのは、
けっして文学的喩えではないようです。

2.色はさまざまなレベルで人に影響している

①心理的影響

無彩色テキストの一部に彩色テキストを入れたり、
白黒画像の一部にカラー画像を入れたりすれば、
明らかに人の心理に与えるインパクトが違うのは
簡単に想像がつきます。

黒澤明監督の白黒映画『天国と地獄』で、
煙突からピンク色の煙が出てきた場面は、
鮮烈な印象を与えたものでした。

天国と地獄

このようにモノクロ画面とカラー画面を
混在させた映画をパートカラー映画といいます。

すてきなパートカラー映画と言えば、
『男と女』(1966年)という仏恋愛映画がありました。

モノクロの世界がカラーになった瞬間の印象は
とても鮮烈でした。

男と女

ふさわしい場所に適切な色を使えば、
暗記力、回想力、認識力などの
心理効果を増大できるのは間違いないでしょう。

色を使って理解・学習・誘導などの場面で
心理的影響を与えられるでしょうね。

②生理的影響

色は生理的・感覚的レベルでも
人に影響を与えるようです。

色と温度感では、こんな話があります。

ロンドンのあるカフェテリアで
従業員から「寒い」という声が上がりました。

エアコンの設定温度は従来どおり21度でしたが、
訴えを受けて3度上げられました。

それでも「寒い」という声は
減らなかったのです。

原因は明るい青の壁の色にありました。

そこで明るい青からオレンジに塗り替えると、
今度は従業員の訴えが
「暑い」に変わったというのです。

明るい青とオレンジでは体感温度に
3~4度もの違いがあったのですね。

オレンジの暖かさ

研究によると、
明るい赤は交感神経系に刺激を与え、
血圧をあげる効果があり、
逆に、青や緑は人をリラックスさせるなどの
生理作用があることがわかっています。

色彩の影響を生理学レベルで
確認しようとする研究は多くあります。

国会図書館のいくつかの学術論文を
垣間見させていただきましたが、
これはまだ始まったばかりの領域のようです。

生理的影響は個人差が大きく、
顕著な影響を確認する(つまり
数値的エビデンスとして提示する)のは
心理的影響の場合ほどは簡単でなさそうです。

③感情的影響

色は人の感情や気分に
大きく影響することがわかっています。

たとえば、
どんよりと曇った冬枯れの景色の中に、
一点開けた雲間から陽の光が差し込んで、
あたりの光景を明るく照らし出した瞬間を
想像してみてください。

あたりの冬枯れの光景は、
一瞬で明るい別の色合いで輝き出すことでしょう。

冬景色

その瞬間の光景を見ている人がいたら、
その人の気持ちがパッと明るくなり、
大きな感情的影響を受けるだろうことは、
簡単に想像できますよね。

個々の環境の中にいる人が
気づいているかいないかに関わらず、
まわりの環境の色、その色の変化、その色の違いは
人に大きな感情的影響を及ぼします。

ただこの「感情的影響」の項目は
内容が多岐にわたるので、
あとで項目を新たにしてご紹介したいと思います。

④文化的影響 

基本的な価値観や慣習が異なる文化圏では
同じ色でも人に与える印象が異なるだろうとは
容易に推測できます。

たとえば、
西洋文化では黒が死を象徴するのに対して、
西洋の死 墓地

東洋文化では白が死を象徴します。

文化は域内のデザインに影響を与えますから、
その意味では価値観が多様化するこれからの時代では
同じ色が個々の小グループ内で別の文脈で受け取られる
という場面が増えてきそうですね。

色彩は文化的存在である人間に
さまざまなレベルで影響を与えているようです。

その色彩が喚起する印象の具体的側面に入る前に、
まず色彩によって呼び起こされる印象に
個人差があるものとあまり個人差ないものがある
ことに触れておきたいと思います。

3.色への反応には共通の反応と個人的反応がある

①色彩の「固有感情」と「表現感情」

色は見る人にさまざまな反応を起こさせます。

「色々(いろいろ)」とか「いろんな」
などという表現からも類推されるように、
色彩は多様性のシンボルそのものとも言えます。

そして色彩が見る人に呼び起こす印象は、
その人の過去の経験の連想からくることは
間違いなさそうです。

そういうわけで色彩が喚起する印象は
必ずしも万人に共通なわけではありません。

とはいえ、生きていく過程で
万人に共通する色彩体験というのもあります

そんな色彩体験にはあまり個人差がないので、
それは色を知覚すること自体と結びついた
ごく一般的な色彩感覚となります。

「暖かい・冷たい」「近い・遠い」

熱い

といったような色彩の印象は、
見る人の個人性によるよりは、
色彩そのものに属する色彩固有の印象だと
見なされるようになりました。

寒い

そのような色の印象、普遍的な色彩感覚を
色彩の「固有感情」と言います

それに対して、
「好き・嫌い」「美しい・醜い」
といった情緒的な印象は、
見る人の個人的連想によるところが大きく、
その色彩に所属する色彩固有の印象ではなく、
(見ている個人の側に属する)
その色彩の表現的な印象と見なされます。

多くの芸術作品などに見られる
そのような見る個人によって異なる印象を
その色彩の「表現感情」と言います。

以下、ここでは
その色を知覚すると即座に連想される感覚、
色の知覚と密接に結びついている
色彩の「固有感情」的側面の代表格をご紹介します。

②「暖色」「寒色」「中性色」

ご存知のように、人間は一般に
「レッド(赤)」や「オレンジ(橙:だいだい)」
の系統に暖かさを感じるようで、
これらは【暖色】と呼ばれます

それに対して、
人間は青系統の色に冷たさを感じます。
これは【寒色】と呼ばれます

どちらとも特に感じられない色を
【中性色】と呼びます。
「ヴァイオレット(紫)」
「グリーン(緑)」が該当します。

「レッド」や「オレンジ」が
炎や太陽を連想させるのはよくわかります。

日本の国旗は「白地に赤く」の日章旗ですが、

日章旗

この「あか」という音は、
太陽が昇ってきて暗い夜空を赤く染め
まわりが「あからむ」「あかるく」なる
ことから来ているそうです。

そもそも日本語では
「赤」は太陽の色だったのですね。

赤外線コタツは今では
寒さに向かう時期の定番商品ですが、
これが初めて販売されたときは、
売れなかったって知ってましたか?

そこでメーカーが
コタツの熱源部分を赤くして売りだすと
今度は人気商品になったのだとか

赤外線コタツ

どうやら人間は目で見て納得しないと
感情が動かない面があるようです。

ちなみに色に感じる温度感ですが、
同じ温度の液体に異なる色をつけて
指を浸してもらう実験では、
、黒、」の順に
暖かいと感じたそうです。

暖色中性色無彩色寒色
の順に並んでいますね。

③「陽気な色」と「陰気な色」

「暖色」「寒色」と類縁な極性として、
「陽気な色」「陰気な色」という極性があります。

だいたい、
「暖色」が「陽気」で
「寒色」が「陰気」な感じに対応します。

その他に
その色の「明度(色の明るさ)」や
「彩度(色の鮮やかさ)」も加わって、

明度、彩度が高いと陽気な感じになり、
明度、彩度が低いと陰気な感じになります。

④「重く感じる色」と「軽く感じる色」

「鉄10キロと
 綿10キロとどっちが重い?」

という有名なジョークがあります。

子どものころ「鉄10キロ!」
なんて答えたことはありませんか?

こういう“本能的”連想には、
ちゃんと学問的な名前もついていて、

「シャルパンティエ効果」といいます。

同じ重量の物体でも大きさが異なると、
体積の大きいほうが軽く感じられ、
体積の小さいほうが重く感じられる
という錯覚現象です。

1891年にドイツの
A・シャルパンティエという方が
発見したそうです。

オーグスチン・シャンパルチエ

色の印象が与える
物体の見かけの軽重感ですが、
色彩の明度の影響が最も大きい
とされているようです。

色の正確な表示を目的に作られた
マンセル表色系という最も一般的な
表色系(色の分類枠)があります。

マンセル表色系の色立体
画像出典:Wikipedia(マンセル表色系の色立体)

このマンセル表色系で
明度のN5を境にして
それより明度が高くなると軽く感じられ、
それより明度が低くなると重く感じられる
という報告があるようです。

同じ物体なら
色が白いほうが色が黒いよりも、
軽く感じられるというようなことです。

ある色彩学者が報告した有名な実験があって、
運搬する箱の色を黒から薄緑に変えたところ、
箱の中身は変わらないのに
工場で作業能率が上がったというのです。

作業員にとっては心理的に
箱が軽く感じられたのかもしれませんね。


⑤「膨張色」と「収縮色」

ファッションの世界で、
「白は太って見え、黒は引き締まって見える」
と言われているのはご存知ですね。

おそらく、そんな常識は先刻ご承知で、
あなたも身につける衣装を
選んでいらっしゃることでしょう。

マンションの見学会などで、
同じ坪数なのに広さが違って見えたり
することがあります。

白木の明るい床の部屋などは広く感じられ、
ダークブラウンなどの床では
部屋が引き締まった印象になります。

こんなふうに同じ大きさの物体でも、
色で大きさの印象が変わることがあります。

大きく膨らんで見える色を「膨張色」、
小さく縮んで見える色を「収縮色」といいます。

この視覚効果を織り込みずみで
作られているのが囲碁の碁石です。

白は膨張色で黒は収縮色なので、
白と黒の碁石の大きさが同じでは
碁盤上に並ぶと白の碁石のほうが
大きめに見えてしまうのです。

なのでほとんどの碁石は、
白い碁石の方がほんの少し小さめに
作られているそうです。

一般に、
明度の高い色が膨張して見え、
明度の低い色が収縮して見えるようです。

これには色相はあまり関係しないそうです。

無彩色では白が、
有彩色では黄色がいちばん膨張して見え、
黒はいちばん収縮して見えるようです。


⑥「進出色」と「後退色」

実際はこちらから同じ距離にあるのに、
より前に(近づいて)見える色と、

より後ろに(遠のいて)見える色があります。

実際より前に見える色を「進出色」、
後ろに見える色を「後退色」といいます。

一般的には、これは「色相」の影響が
大きいと考えられています。

赤や黄などの暖色系が「進出色」、
青など寒色系が「後退色」といわれます。

この色の印象効果の理由は、
「色収差(いろしゅうさ)」による
という説が主力のようです。

太陽の光をプリズムに通すと、
虹の七色の色の帯が現れることを
発見したのはニュートンでした。

この分光現象は
色彩の波長に応じてプリズム透過の
屈折率が異なることから生じています。

色収差(いろしゅうさ)というのは、
レンズなどで像をつくるときに、
分散が原因で色ズレとして発生する収差です。

赤は長波長で、青は短波長ですが、
目のレンズを通過するときの屈折率が
長波長は鈍角側に、短波長は鋭角側に
ずれるわけです。

そのまま行くと、
屈折率が鈍角の長波長は網膜よりうしろに結像し、
短波長の青は網膜の手前で結像します。

ところが
人間の身体というのはすごいもので、
人間の目の水晶体はこの色のズレを
自動で再調整してくれているというのです。

赤はうしろに結んだ像を引き戻して
実際よりも前に結像させ、
青は前に結んだ像を引き戻して
実際よりも、うしろに結像させている。

これで知覚像としての物体の形と色は
見事にピタッと決まるわけです。

そしてその高度な修正機能の副次効果が
「進出色」と「後退色」という
色彩印象効果となって現われるのですね。

 

4.色とは何か?

①色は物に「付いている」のではない

ここまで
まわり中の環境にある色が、
私たち人間に(ほとんど無意識レベルの)
さまざまな影響を及ぼしていることを
見てきました。

ではここで改めてですが、
色とはいったい何なのでしょうか?

わかりきったこととも思われていたのに、
いったん「色とは何か?」と調べてみると、
ちょっと意外なことを知ることになります。

じつは「色」とは、
個々の物体に「付いている」わけでは
ないようなのです。

「色」は「対象物」と
それを「見る人」との関係性のなかで
その色として出現しているらしいのです。

では「色」は
普段はどこかに隠れているのでしょうか?

②色は白色光の中に隠れている

「色」がどこにあるのかを
物理的に検証可能なエビデンスとともに
見事に説明したのが、
かのアイザック・ニュートンでした。

ニュートンは
「色」の実体は「光」であること、
すべてを照らしだす無色透明の「光」の中に
「色」として現れるすべての要素が
内蔵されていることを証明したのです。

1666年、ニュートンが
無色透明の太陽の光(白色光)を
ガラスの三角柱(プリズム)に当てると、
プリズムの背後にある白壁に
虹色の光の帯(スペクトル)が現われたのです。
プリズムを通り抜けた白色光は
それぞれ異なる屈折率の色光となって
見事に分光したのでした。

空間に充満している無色透明の光は
実際はいくつもの色の要素(色光)が
重なったものだったのです。

③光とは電磁波のなかの可視光線のこと

光(ひかり)とは電磁波のうち波長が
380nm~780nmのもの(可視光)をいいます。
 
電磁波というのは
電場と磁場の変化を伝搬する波(波動)のことです。

そして電磁波には
「波」と「粒子」の両方の性質があるのです。

生活上聞き慣れた電磁波を
波長の長い方から挙げてみましょう。

テレビ波(1m~1km)
レーダー波(1mm~1m)
赤外線(1/1000mm~1mm)
可視光線(380nm~780nm)
紫外線(1nm~380nm)
X線(1/1000nm~1nm)
ガンマ線(1/1000000nm~1/1000nm)

おおよそこんな感じです。

波長の長さはnm(ナノメートル)で表され、
1nmは10億分の1m(100万分の1m)です。

このうち(赤外線と紫外線の間の)
380nm~780nmが可視光線が
人間に色覚を生じさせる領域です。

太陽光には
赤外線や紫外線も含まれていますが、
人間の感覚器官はそれに反応しないので
私たちには見えません。

可視光線の色は、
日本語では波長の短い側から順に、
紫、青、水色、緑、黄、橙、赤で、
俗に“虹の7色”といわれます。

5.人が色を感じる仕組み

①「色覚」は「視覚」の全機能を担っている?

人が外界の光を感じて、
物体の色、形、運動、テクスチャ、奥行きなどを
感じる感覚器官は、眼、眼球です。

言葉を換えると、「視覚」とは
形態覚、運動覚、色覚、明暗覚などの総称といえます。

ところが、あとで「視細胞」の項で見ますが、
人間の視覚は「明るさ」と「色彩」を感知するだけで
両方とも「色覚」機能なのです。

つまり、対象物の「形態」や「運動」、
それが起こっている空間の「明暗」も、
実際はすべて「色」として感知されているのです。

物の形、運動、質感、奥行きなどはすべて
対象物の3次元的属性ですから距離が関係します。

ところが
超音波パルスを発し対象物からのエコーを聴いて
直接距離を感じているコウモリなどと違って、
人間には物理的距離を直接知覚する
感覚器官はありません。

網膜から入力される情報は2次元ですから、
距離に関する直接情報は含まれていないのです。

視覚から得られる距離に関わる情報には、
「絵画的奥行き手がかり」「両眼網膜像差」
「運動視差」がありますが、
これらはすべて色覚から得られている情報です。。

ということは、
色覚、形態覚、運動覚、明暗覚などはすべて
実際は「色覚」が支えていることになります。

その色覚機能で得られた信号が解読・解析されて、
色、形態、運動、明暗、質感といった
知覚として再構築されているわけです。

「視覚」の全機能は
実際は「色覚」が担っていると言えそうです。

②人の目はカメラによく似ている

その視覚を支える眼球ですが、
奥行き約24ミリメートル、
重量約7グラムのごく小さな感覚器です。

人間が外から受ける情報の80パーセント以上が、
この2つの透き通った瞳から
入ってくると言われています。

視覚機能の解説文などでは
人間の眼はよく「カメラ」に喩えられます。

【カメラ】  →  【目】

 ボディー  →  強膜(しろ目)
 フィルター →  角膜(くろ目)
 しぼり   →  虹彩(こうさい)
 レンズ   →  水晶体
 フィルム  →  網膜(もうまく)

・強膜(きょうまく):
 外側のカメラのボディに当たる部分。
 直径約24mmの眼球を覆う保護膜で
 白い硬い膜。(“白目”の部分)
 
・「角膜」:「強膜」の正面の透明部分。

・虹彩(こうさい)と瞳孔(どうこう)
 角膜の奥に見えているのが「虹彩」です。
 (日本人なら多くは鳶色の部分ですね)
 「虹彩」はカメラの絞りに該当し、
 眼の奥に入る光の量を調節しています。
 「虹彩」の中央の穴の部分が「瞳孔」です。
 「瞳孔」の縮小時と拡大時の面積比は1対16
 かなりの明暗差に耐えられそうです。

・水晶体、毛様体(もうようたい)
 瞳孔を通過した光は「水晶体」で屈折します。
 「水晶体」は厚さ5mmほどの透明の組織で、
 「毛様体」から出る細い糸(チン小帯)で
 固定されています。

 カメラのレンズは位置移動(ズーム)で
 焦点を合わせますが、
 眼球の水晶体はズームできないので、
 (マンガではときどき飛び出しますが。(^_-) )
 レンズの屈折率自体を変えてピントを合わせます。

・「硝子体(しょうしたい)」:
 水晶体の背後にあって、眼球の内部空間全体を
 充填しているゼリー状の透明な物質。
 眼球の代謝物質の通り道であり、
 眼球全体の形態保持も担当しています。

・まぶた(眼瞼):レンズキャップに当たります。

・網膜(もうまく):カメラのフィルムに相当
 視覚機能の中核を担う部分です。

③「網膜」が視覚の中核機能を担っている

「網膜」は眼球の内壁を覆う薄い膜ですが、
ここに視覚機能の中枢部分があります。

網膜には棒状の「桿体(かんたい)細胞」と
円錐状の「錐体(すいたい)細胞」という
2種類の視細胞が分布しています。

「桿体細胞」は「明るさ」を感知する視細胞、
「錐体細胞」は「色」を識別する視細胞で、
視覚機能はこの2種類の視細胞が役割分担しています。

「明るさ」は入射光の「粒子」的要素、
つまり光子量の多さできまります。

この明るさを感知する桿体細胞は
網膜の周辺部全般に約1億3000万個分布します。

それに対し「色」は光の「波」的要素、
つまり波長に反映されています。

「色」を感知識別するのは3種類の錐体細胞で
眼球の(中心窩とよばれる)視軸中心部分に
約600万~700万個分布しています。

3種類の錐体細胞とは、
420nm(青)、534nm(緑)、564nm(赤)の
電磁波長に高い感度を示す3タイプで、
それぞれR錐体、G錐体、B錐体と呼ばれます。

これらは6対3対1の割合で存在しています。

つまり色の識別能力の半分以上が
「赤」の探知に向けられていると考えられます。


④視覚は「明るさ感知」と「色識別」の2ステップ

明るさを感知する桿体細胞には
ロドプシンという色素が含まれていて
光が当たると分解し、光がなくなると再合成して
明るさ情報を送ります。

この桿体細胞の感度はきわめて高く、
照度0.001ルックス~数ルックスの暗所で機能します。

色を識別する錐体細胞の900倍と言われますが、
数ルックス以上の明るさでは飽和して動作しません。

現代の都市生活条件下では
ふつう桿体視細胞は飽和してしまい、
私たちの日常で桿体視細胞が働くのは
夜中に暗い部屋で目を覚ましたときくらいです。

視細胞が密集する網膜の中心部を「黄斑」といい、
特に視細胞が高密度に集中する黄斑の中央を
「中心窩」といいます。

色を識別する3種類の錐体細胞はすべて
この中心窩に集中して分布しています。

錐体が高密度に分布するこの中心窩が
視力の最も高い領域です。

私たち人間の視覚は
まず外界の明るさを感知する機能と、
一定以上の明るさの中で動作する
色を識別する機能の2段階で構成されています。


6.色への反応は進化の中で獲得された


①霊長類は高度な色覚を発達させた唯一の哺乳類

いろいろな動物の中でも、
色覚があるとはっきりわかっているのは
昆虫などの節足動物と脊椎動物だけと言われています。

その脊椎動物のなかでは
もともと昼行性動物であった鳥類と爬虫類は
高度な色覚をもっています。

ところが人類を含む霊長類を除けば、
じつはほかの哺乳類は今に至るまで
魚類、爬虫類、鳥類などに比べると
日中の視覚は大きく劣っているのです。

そう考えられる根拠は、
多くの魚類、爬虫類、鳥類の目の網膜には
中心窩に錐体細胞が高密度で存在するのに比べ、
(霊長類以外の)哺乳類の網膜には中心窩がなく、
暗い中で光を補足する桿体細胞が多いからです。

最近テルアビブ大学のロイ・マオール氏のチームが
現存する哺乳類2415種を対象に行った
行動様式分析の研究論文を発表発表しました。

論文によると、
最初期の哺乳類は夜行性動物で、
昼間の世界を支配していた恐竜の絶滅後に
初めて日中に活動する哺乳類が登場したそうです。

その中で完全な昼行性に移行した最初の哺乳類が
霊長類の祖先だったと考えられると。

古代の哺乳類は恐竜に捕食される危険を避けるために
何千万年ものあいだ暗闇に身を隠していた。

そして恐竜が絶滅したあとの地上世界では、
霊長類の中の人類が食物連鎖の頂点に立ったわけです。

このことは人類が高機能の色覚を獲得したことと
とても深い関係がありそうです。

②「緑」や「青」は住み慣れた生活の場の色

マオール氏たちの研究では
哺乳類は中生代末まで夜行性のままだったようです。

今から約6600万年前の中生代の終わりに
小惑星衝突とみられる大規模災害が発生し、
恐竜と地球上の生命の約4分の3が死滅したとされます。

そして恐竜が天下の時代が終わったのでしょう。

同論文によると、
霊長類の祖先の哺乳類が完全な昼行性に移行したのは
約5200万年前と推定されるそうです。

昼行性に移行した初期の哺乳類
(なかでも霊長類)の生活の場は地上ではなく、
主に樹上だったと考えられているようです。

そのため霊長類の視覚は最初は緑、
次に緑の間から見える空の色を識別するために青、
次に木の実を探しやすいように赤、
という順で獲得されたという説もあります。

樹上で生きるためには樹の枝葉をあらわす緑と
その間の隙間(空の青)を瞬時に見分けながら
移動する必要があったでしょう。

ただし、
色の発見順については別の見解もあります。
その見解では「青」は最後に発見された色とされます。

たしかに、哺乳類が枝から枝へと飛び移るとき、
見ていたのは枝であって、その間の空色は、
色とは意識されなかったかもしれません。

しかしいずれにせよ、樹上で生きる哺乳類には
緑や青は住み慣れた生活の場の色だったでしょう。

緑や青が食事や睡眠を連想させる場所の色なら
緑や青から弛緩反応が生まれるのも当然です。

遠い昔から
人は真っ暗な中では比較的安心して警戒を緩め、
外界刺激に対して鈍感になれたのでしょう。

「赤」や「オレンジ」は果実の色?

人類がいつ火を発見したかを確定するのは
とてもむずかしいことのようです。

170万年から20万年前まで広い範囲で説があります。
ただし日常的な広範囲の使用を示す証拠は、
約12万5千年前の遺跡から見つかっています。

旧石器時代と呼ばれる時代と重なり、
人類は地上で洞窟を住居としていたでしょう。

ここでは暗闇は身を隠せる安全を意味し、
また明るさは自分が外敵に身を晒している
警戒の必要性を意味したことでしょう。

錐体の900倍の感度をもつという桿体は、
いわば“寝ずの番”のような
明るさ感知機能として進化したと想像されます。

いったん明るい外界に出たら、
外界の様子をくわしく色で識別する機能である
錐体細胞が起き上がるタイミングだったでしょう。

白昼の中では空の「青色」は
無視できる範囲を意味していたかもしれません。

まわりにある「緑色」の部分は要注意領域です。
それは植物(食料)を意味する領域です。

しかしなかでも最も注目すべきは
「赤」や「橙(だいだい)」など
果実を意味する色だったかもしれません。

 


④それとも燃える火?獲物?危険?

すでに恐竜は存在していないにせよ、
まわりに外敵はたくさんいます。

そしていったん日が暮れると
世界は圧倒的な暗闇に覆われます。

その闇の中で遠い明かりを見つけたときは
どれほど安心したことでしょうか。

それは生存の可能性そのものを
意味するように思えたかもしれません。

 

暗闇の中の暖かく燃える炎の色も、
木漏れ日の下の緑の中の果実の色も
ともに「オレンジ」から「赤」の暖色です。

そしてときに「赤」は、
獲物の血の色を意味している場合や、
また戦闘を暗示する危急を意味する場合も
あったかもしれません。

そんな長い歴史の経過の中で
色の識別機能を担当する錐体細胞は
「赤」を探知するための「R錐体」が
半数を超えたのかもしれません。

私たちの網膜の中心窩にある視細胞は
R錐体:G錐体:B錐体=6:3:1
の割合で存在しているのです。


⑤格闘技で赤の着用者が優位にたった理由とは?

2005年のNatureにある論文が発表されました。
2004年のアテネ・オリンピックでの4種目の格闘技
(ボクシング、テコンドー、レスリング2種目)で
赤のウエアやヘッドギアの着用選手と青の着用者で
勝率差があるかどうかを調べたところ
驚いたことに4つの競技とも
赤を着用した方が青を着用した場合よりも
勝利数が多いという結果が得られたというのです。

同レベルの能力が想定される選手の場合では、
その勝率差は20%にも広がったのだとか。

 

このような勝率差は
赤の着用が選手の血流量を増加させる男性ホルモン
テストステロンの濃度を押し上げた結果では
という推測も生んだようです。

しかし赤の選手が強くなったとはかぎらず、
青の選手が弱くなった可能性もありえます。

この格闘技での着衣による勝率差の研究は
その後も続き、柔道の大会での白い胴着と青い胴着
の勝率差などの調査結果も踏まえ、
青を着用した選手が弱くなるのではなく,
また青の選手と対峙した選手が強くなるのでもなく、
結局、【赤の選手と対峙した選手が弱くなる】のだ
ということが判明したそうです。

アテネオリンピックの結果を
男女別に分析し直したその後の研究では、
赤の選手の勝率が高くなるのは男性競技者の
場合だけで,女性競技者の場合は
赤の効果は生じないことが確認されたそうです。

赤い服の相手に優位性を感じるのは
優位者の位置を争わなければならない
男性のみの遺伝子に刻印されていたようです。


⑥赤は霊長類共通の優位性を示すサイン?

名古屋学院大学国際文化学部の柴崎全弘氏の論文
「ヒトはなぜ赤に反応するのか?
 —赤色の機能に関する進化心理学的研究—」によると、
赤色が優位性を示すサインになっているのは
ヒトに限ったことではなく、
他の霊長類でも確認されているそうです。

マンドリルは鼻口部が赤くなっており、
通常、群れの中で最上位のオスが最も鮮や
かな赤色をしているそうです。

 

 

この特徴は,アルファオスの座の保持期間が長く
なるほど顕著になり、またそれまでの最上位オス
との争いに勝ったオスがトップの座につくと、
鼻口部の赤みが増してゆくのだそうです。

どうやら霊長類の長い進化の歴史の中で
人は赤い色を見ると一種の警戒モードに入り、
テストステロンを放出し
心臓の鼓動を速めて臨戦態勢に入るような
スイッチがオンになるかもしれません。

アメリカ合衆国のアリゾナ州で発見された
マンモスの化石の骨の間から、
石でできた槍の穂先が見つかっているそうです。

この化石は約1万2千年前のものと考えられ、
当時マンモスが狩猟対象だった証拠とされています。

マンモス狩りは集団で行う狩だったでしょう。
果敢にマンモスに挑戦し続ける者たちの中で
最後にとどめを刺した者は全身に血を浴び
真っ赤に染まっていたことでしょう。

全身赤く染まった彼こそは
その集団の中の勇者であったに違いありません。

 

 

武士の“赤備え”とは
そのような遠い記憶を反映させた勇者の印
だったのかもしれません。