色と心理の働きを知って 人生を豊かに生きる

色彩心理学

 

1.私たちは色彩の波の中で生きている

①私たちは色から影響を受けている?

世界は色彩に溢れていますが、
私たちはこの色から無意識のうちに
大きな影響を受けているとも言われます。

ふだん色からの影響など意識しませんが、
それは本当のことなのでしょうか?

ニコラス・K・ハンフリーという
イギリスの心理学者がいます。
ニコラス・ハンフリー
トンネルでつないだ青い照明の部屋と
赤い照明の部屋を用意して、
そこにサルを入れてどちらの部屋にでも
自由に留まれるようにする実験を行ないました。
赤い空間
結果はどうなったか?
サルは常に好んで青い部屋に留まったそうです。
青い照明の部屋のほうが安らいだようです。
青い水
これは猿の実験ですが、
この赤と青の色の違いが人間の時間感覚にも
影響を及ぼすことはよく知られています。

時計のない2つの部屋に1人づつ入ってもらい、
「1時間経った」と思った時点で
外に出てもらうという実験をした方がいます。

赤の部屋に入った人は40分で、
赤い部屋
青の部屋に入った人は1時間半で出てきたそうです。
青い部屋
赤い色の部屋では実際の時間より長く感じ、
青い色の部屋では実際の時間より短く感じたわけです。

この実験だけでは厳密ではなさそうですが、
部屋の色が時間感覚に影響することは
現在では広く知られていて、
社会のさまざまな場面で応用されています。

私たちが気づかぬうちに
色の影響を受けているのは間違いなさそうです。

②私たちは色の世界に反応して生きている

五感の優位性

画像出典:論文「おいしいの視覚化」サレジオ工業高等学校デザイン学科価値創造研究室

人間が外界から受け取る情報の割合は、
視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、
味覚は1%といわれています。

私たちはこの眼から得られる情報で
外界の明るさを知り(明暗覚)、
物の形を知り(形態覚)、
色を知り(色覚)、動きを知り(運動覚)
自分が対応する外界のほぼすべての様子を
知覚しているのです。

「色覚」はこの「視覚」のなかで
色彩を感知するだけの機能とも見えます。

ところがじつは人間の視覚は
距離に関する直接的情報を取得できません。

直接距離を感じているコウモリなどと違って、
コウモリ
対象物との距離を直接は感じられません。

網膜から入力される情報は2次元なので、
2次元の情報から3次元の画像を作るために
脳が距離に関する情報を割り出しているのです。

けっきょく色以外の視覚情報も、
実際は色覚から得られた情報にもとづいて
脳の中で再構成されていると考えられます。

どうやら私たちは
色彩の洪水とも言える世界の中で
大部分その色の刺激に反応して生きている
言って間違いないようです。

③色を見ているのは眼だけではない?

オプシンとレチナール

画像出典:ウィキメディア・コモンズ

人間の色の知覚は、
網膜にあるオプシンというタンパク質と
レチナールという色素の組み合わせで
実現されているのだそうです。

ところがこのオプシンは
皮膚でも存在が確認されているらしいのです。

東京大学大学院創生科学研究科「視覚の進化」で
視覚研究の最先端を担う河村正二先生は、
「見える」ということについて
こんなことをおっしゃっています。

視物質は、オプシンと呼ばれるタンパク質と、
 レチナールと呼ばれる色素の組み合わせ
 でできているんです。
 これは、生命の歴史の中で、
 光を感じる仕組みとして、かなり普遍的なものです」

「タコやカメレオンなどの動物は、
 周りの環境に合わせて皮膚の色を変えます。
カメレオン
 それも『目』→『脳』→『皮膚』というルートではなく、
 皮膚自体が周りの色を感知して環境に同化します。
 
 人も皮膚自体が何らかの形で可視光(色)を
 感知していてもおかしくありません
 https://nkbp.jp/3J4cgJp

また人間は目隠しをしていても、
赤い部屋と青い部屋では脈拍や血圧に変化が出る
という実験報告があるそうです。

どうやら人間は眼からだけでなく、
皮膚からも色の情報を得ているようです。

④ヘレンケラー女史の証言

盲聾唖の三重苦の奇跡の人
ヘレンケラー女史はその著『私の生涯』のなかで
こんなふうに書かれています。
『私の生涯』
「私は、太陽が葉から葉へ照り返す
 光を見ることができました。
 こうして──見えないものの実証を
 とらえることができるようになりました。」

「私はスカーレットとクリムソンの違いが分かります。
 ──私は色には濃淡があることも、
 濃淡がどういうことであるかも分かります。
 匂いや味にも濃淡があるからです。
 太陽にかざすと
 あなたには色は退色して見えるように、
 私にとっても香は失せます。
 ──連想の力が私に、
 白の高尚な混ざり気のないイメージとか、
 緑の生命力とか、
 赤から愛や恥じらいを連想させます。
 つまり、
 私の中に色がないということは考えられません」

視覚も聴覚も失ったヘレン・ケラー女史が
触覚と嗅覚と味覚で世界を感じていたことは
間違いありません。

この引用箇所の中で女史は
ご自分の色の感覚を「匂いや味」の感覚からの
連想にもとづくものと推論されています。

サリバン先生の指導によって
まわりの世界への連想を深化させた女史が
嗅覚と味覚の能力を拡大したことは確かでしょう。
サリバン先生の指文字をたどる7歳のヘレン
しかし彼女がただ連想の世界を
拡大しただけではない可能性もあります。

もしかしたら女史は皮膚感覚で
実際に色を感じていたのかもしれませんね。

ヘレンケラー女史が緑や赤の色の違いだけでなく
その濃淡まで識別しているとおっしゃるのは、
けっして文学的喩えではないようです。

2.色はさまざまなレベルで人に影響している

①心理的影響

無彩色テキストの一部に彩色テキストを入れたり、
白黒画像の一部にカラー画像を入れたりすれば、
明らかに人の心理に与えるインパクトが違うのは
簡単に想像がつきます。

黒澤明監督の白黒映画『天国と地獄』で、
煙突からピンク色の煙が出てきた場面は、
鮮烈な印象を与えたものでした。
天国と地獄
このようにモノクロ画面とカラー画面を
混在させた映画をパートカラー映画といいます。

すてきなパートカラー映画と言えば、
『男と女』(1966年)という仏恋愛映画がありました。

モノクロの世界がカラーになった瞬間の印象は
とても鮮烈でした。
男と女
ふさわしい場所に適切な色を使えば、
暗記力、回想力、認識力などの
心理効果を増大できるのは間違いないでしょう。

色を使って理解・学習・誘導などの場面で
心理的影響を与えられるでしょうね。

②生理的影響

色は生理的・感覚的レベルでも
人に影響を与えるようです。

色と温度感では、こんな話があります。

ロンドンのあるカフェテリアで
従業員から「寒い」という声が上がりました。

エアコンの設定温度は従来どおり21度でしたが、
訴えを受けて3度上げられました。

それでも「寒い」という声は
減らなかったのです。

原因は明るい青の壁の色にありました。

そこで明るい青からオレンジに塗り替えると、
今度は従業員の訴えが
「暑い」に変わったというのです。

明るい青とオレンジでは体感温度に
3~4度もの違いがあったのですね。
オレンジの暖かさ
研究によると、
明るい赤は交感神経系に刺激を与え、
血圧をあげる効果があり、
逆に、青や緑は人をリラックスさせるなどの
生理作用があることがわかっています。

色彩の影響を生理学レベルで
確認しようとする研究は多くあります。

国会図書館のいくつかの学術論文を
垣間見させていただきましたが、
これはまだ始まったばかりの領域のようです。

生理的影響は個人差が大きく、
顕著な影響を確認する(つまり
数値的エビデンスとして提示する)のは
心理的影響の場合ほどは簡単でなさそうです。

③感情的影響

色は人の感情や気分に
大きく影響することがわかっています。

たとえば、
どんよりと曇った冬枯れの景色の中に、
一点開けた雲間から陽の光が差し込んで、
あたりの光景を明るく照らし出した瞬間を
想像してみてください。

あたりの冬枯れの光景は、
一瞬で明るい別の色合いで輝き出すことでしょう。
冬景色
その瞬間の光景を見ている人がいたら、
その人の気持ちがパッと明るくなり、
大きな感情的影響を受けるだろうことは、
簡単に想像できますよね。

個々の環境の中にいる人が
気づいているかいないかに関わらず、
まわりの環境の色、その色の変化、その色の違いは
人に大きな感情的影響を及ぼします。

ただこの「感情的影響」の項目は
内容が多岐にわたるので、
あとで項目を新たにしてご紹介したいと思います。

④文化的影響 

基本的な価値観や慣習が異なる文化圏では
同じ色でも人に与える印象が異なるだろうとは
容易に推測できます。

たとえば、
西洋文化では黒が死を象徴するのに対して、
西洋の死 墓地
東洋文化では白が死を象徴します。

文化は域内のデザインに影響を与えますから、
その意味では価値観が多様化するこれからの時代では
同じ色が個々の小グループ内で別の文脈で受け取られる
という場面が増えてきそうですね。

色彩は文化的存在である人間に
さまざまなレベルで影響を与えているようです。

その色彩が喚起する印象の具体的側面に入る前に、
まず色彩によって呼び起こされる印象に
個人差があるものとあまり個人差ないものがある
ことに触れておきたいと思います。

3.色への反応には共通の反応と個人的反応がある

①色彩の「固有感情」と「表現感情」

色は見る人にさまざまな反応を起こさせます。

「色々(いろいろ)」とか「いろんな」
などという表現からも類推されるように、
色彩は多様性のシンボルそのものとも言えます。

そして色彩が見る人に呼び起こす印象は、
その人の過去の経験の連想からくることは
間違いなさそうです。

そういうわけで色彩が喚起する印象は
必ずしも万人に共通なわけではありません。

とはいえ、生きていく過程で
万人に共通する色彩体験というのもあります

そんな色彩体験にはあまり個人差がないので、
それは色を知覚すること自体と結びついた
ごく一般的な色彩感覚となります。

「暖かい・冷たい」「近い・遠い」
熱い
といったような色彩の印象は、
見る人の個人性によるよりは、
色彩そのものに属する色彩固有の印象だと
見なされるようになりました。
寒い
そのような色の印象、普遍的な色彩感覚を
色彩の「固有感情」と言います

それに対して、
「好き・嫌い」「美しい・醜い」
といった情緒的な印象は、
見る人の個人的連想によるところが大きく、
その色彩に所属する色彩固有の印象ではなく、
(見ている個人の側に属する)
その色彩の表現的な印象と見なされます。

多くの芸術作品などに見られる
そのような見る個人によって異なる印象を
その色彩の「表現感情」と言います。

以下、ここでは
その色を知覚すると即座に連想される感覚、
色の知覚と密接に結びついている
色彩の「固有感情」的側面の代表格をご紹介します。

②「暖色」「寒色」「中性色」

ご存知のように、人間は一般に
「レッド(赤)」や「オレンジ(橙:だいだい)」
の系統に暖かさを感じるようで、
これらは【暖色】と呼ばれます

それに対して、
人間は青系統の色に冷たさを感じます。
これは【寒色】と呼ばれます

どちらとも特に感じられない色を
【中性色】と呼びます。
「ヴァイオレット(紫)」
「グリーン(緑)」が該当します。

「レッド」や「オレンジ」が
炎や太陽を連想させるのはよくわかります。

日本の国旗は「白地に赤く」の日章旗ですが、
日章旗
この「あか」という音は、
太陽が昇ってきて暗い夜空を赤く染め
まわりが「あからむ」「あかるく」なる
ことから来ているそうです。

そもそも日本語では
「赤」は太陽の色だったのですね。

赤外線コタツは今では
寒さに向かう時期の定番商品ですが、
これが初めて販売されたときは、
売れなかったって知ってましたか?

そこでメーカーが
コタツの熱源部分を赤くして売りだすと
今度は人気商品になったのだとか
赤外線コタツ
どうやら人間は目で見て納得しないと
感情が動かない面があるようです。

ちなみに色に感じる温度感ですが、
同じ温度の液体に異なる色をつけて
指を浸してもらう実験では、
、黒、」の順に
暖かいと感じたそうです。

暖色中性色無彩色寒色
の順に並んでいますね。

③「陽気な色」と「陰気な色」

「暖色」「寒色」と類縁な極性として、
「陽気な色」「陰気な色」という極性があります。

だいたい、
「暖色」が「陽気」で
「寒色」が「陰気」な感じに対応します。

その他に
その色の「明度(色の明るさ)」や
「彩度(色の鮮やかさ)」も加わって、

明度、彩度が高いと陽気な感じになり、
明度、彩度が低いと陰気な感じになります。

④「重く感じる色」と「軽く感じる色」

「鉄10キロと
 綿10キロとどっちが重い?」

という有名なジョークがあります。

子どものころ「鉄10キロ!」
なんて答えたことはありませんか?

こういう“本能的”連想には、
ちゃんと学問的な名前もついていて、

「シャルパンティエ効果」といいます。

同じ重量の物体でも大きさが異なると、
体積の大きいほうが軽く感じられ、
体積の小さいほうが重く感じられる
という錯覚現象です。

1891年にドイツの
A・シャルパンティエという方が
発見したそうです。
オーグスチン・シャンパルチエ
色の印象が与える
物体の見かけの軽重感ですが、
色彩の明度の影響が最も大きい
とされているようです。

マンセル表色系の色立体

画像出典:Wikipedia(マンセル表色系の色立体)

色の正確な表示を目的に作られた
マンセル表色系という最も一般的な
表色系(色の分類枠)があります。

このマンセル表色系で
明度のN5を境にして
それより明度が高くなると軽く感じられ、
それより明度が低くなると重く感じられる
という報告があるようです。

同じ物体なら
色が白いほうが色が黒いよりも、
軽く感じられるというようなことです。

ある色彩学者が報告した有名な実験があって、
運搬する箱の色を黒から薄緑に変えたところ、
箱の中身は変わらないのに
工場で作業能率が上がったというのです。

作業員にとっては心理的に
箱が軽く感じられたのかもしれませんね。

⑤「膨張色」と「収縮色」

ファッションの世界で、
「白は太って見え、黒は引き締まって見える」
と言われているのはご存知ですね。

おそらく、そんな常識は先刻ご承知で、
あなたも身につける衣装を
選んでいらっしゃることでしょう。

マンションの見学会などで、
同じ坪数なのに広さが違って見えたり
することがあります。

白木の明るい床の部屋などは広く感じられ、
ダークブラウンなどの床では
部屋が引き締まった印象になります。

こんなふうに同じ大きさの物体でも、
色で大きさの印象が変わることがあります。

大きく膨らんで見える色を「膨張色」、
小さく縮んで見える色を「収縮色」といいます。

この視覚効果を織り込みずみで
作られているのが囲碁の碁石です。

白は膨張色で黒は収縮色なので、
白と黒の碁石の大きさが同じでは
碁盤上に並ぶと白の碁石のほうが
大きめに見えてしまうのです。

なのでほとんどの碁石は、
白い碁石の方がほんの少し小さめに
作られているそうです。

一般に、
明度の高い色が膨張して見え、
明度の低い色が収縮して見えるようです。

これには色相はあまり関係しないそうです。

無彩色では白が、
有彩色では黄色がいちばん膨張して見え、
黒はいちばん収縮して見えるようです。

⑥「進出色」と「後退色」

実際はこちらから同じ距離にあるのに、
より前に(近づいて)見える色と、

より後ろに(遠のいて)見える色があります。

実際より前に見える色を「進出色」、
後ろに見える色を「後退色」といいます。

一般的には、これは「色相」の影響が
大きいと考えられています。

赤や黄などの暖色系が「進出色」、
青など寒色系が「後退色」といわれます。

この色の印象効果の理由は、
「色収差(いろしゅうさ)」による
という説が主力のようです。

太陽の光をプリズムに通すと、
虹の七色の色の帯が現れることを
発見したのはニュートンでした。

この分光現象は
色彩の波長に応じてプリズム透過の
屈折率が異なることから生じています。

色収差(いろしゅうさ)というのは、
レンズなどで像をつくるときに、
分散が原因で色ズレとして発生する収差です。

赤は長波長で、青は短波長ですが、
目のレンズを通過するときの屈折率が
長波長は鈍角側に、短波長は鋭角側に
ずれるわけです。

そのまま行くと、
屈折率が鈍角の長波長は網膜よりうしろに結像し、
短波長の青は網膜の手前で結像します。

ところが
人間の身体というのはすごいもので、
人間の目の水晶体はこの色のズレを
自動で再調整してくれているというのです。

赤はうしろに結んだ像を引き戻して
実際よりも前に結像させ、
青は前に結んだ像を引き戻して
実際よりも、うしろに結像させている。

これで知覚像としての物体の形と色は
見事にピタッと決まるわけです。

そしてその高度な修正機能の副次効果が
「進出色」と「後退色」という
色彩印象効果となって現われるのですね。

4.色とは何か?

①色は物に「付いている」のではない

ここまで
まわり中の環境にある色が、
私たち人間に(ほとんど無意識レベルの)
さまざまな影響を及ぼしていることを
見てきました。

ではここで改めてですが、
色とはいったい何なのでしょうか?

わかりきったこととも思われていたのに、
いったん「色とは何か?」と調べてみると、
ちょっと意外なことを知ることになります。

じつは「色」とは、
個々の物体に「付いている」わけでは
ないようなのです。

「色」は「対象物」と
それを「見る人」との関係性のなかで
その色として出現しているらしいのです。

では「色」は
普段はどこかに隠れているのでしょうか?

②色は白色光の中に隠れている

「色」がどこにあるのかを
物理的に検証可能なエビデンスとともに
見事に説明したのが、
かのアイザック・ニュートンでした。

ニュートンは
「色」の実体は「光」であること、
すべてを照らしだす無色透明の「光」の中に
「色」として現れるすべての要素が
内蔵されていることを証明したのです。

1666年、ニュートンが
無色透明の太陽の光(白色光)を
ガラスの三角柱(プリズム)に当てると、
プリズムの背後にある白壁に
虹色の光の帯(スペクトル)が現われたのです。
プリズムを通り抜けた白色光は
それぞれ異なる屈折率の色光となって
見事に分光したのでした。

空間に充満している無色透明の光は
実際はいくつもの色の要素(色光)が
重なったものだったのです。

③光とは電磁波のなかの可視光線のこと

光(ひかり)とは電磁波のうち波長が
380nm~780nmのもの(可視光)をいいます。
 
電磁波というのは
電場と磁場の変化を伝搬する波(波動)のことです。

そして電磁波には
「波」と「粒子」の両方の性質があるのです。

生活上聞き慣れた電磁波を
波長の長い方から挙げてみましょう。

テレビ波(1m~1km)
レーダー波(1mm~1m)
赤外線(1/1000mm~1mm)
可視光線(380nm~780nm)
紫外線(1nm~380nm)
X線(1/1000nm~1nm)
ガンマ線(1/1000000nm~1/1000nm)

おおよそこんな感じです。

波長の長さはnm(ナノメートル)で表され、
1nmは10億分の1m(100万分の1m)です。

このうち(赤外線と紫外線の間の)
380nm~780nmが可視光線が
人間に色覚を生じさせる領域です。

太陽光には
赤外線や紫外線も含まれていますが、
人間の感覚器官はそれに反応しないので
私たちには見えません。

可視光線の色は、
日本語では波長の短い側から順に、
紫、青、水色、緑、黄、橙、赤で、
俗に“虹の7色”といわれます。

5.人が色を感じる仕組み

①「色覚」は「視覚」の全機能を担っている?

人が外界の光を感じて、
物体の色、形、運動、テクスチャ、奥行きなどを
感じる感覚器官は、眼、眼球です。

言葉を換えると、「視覚」とは
形態覚、運動覚、色覚、明暗覚などの総称といえます。

ところが、あとで「視細胞」の項で見ますが、
人間の視覚は「明るさ」と「色彩」を感知するだけで
両方とも「色覚」機能なのです。

つまり、対象物の「形態」や「運動」、
それが起こっている空間の「明暗」も、
実際はすべて「色」として感知されているのです。

物の形、運動、質感、奥行きなどはすべて
対象物の3次元的属性ですから距離が関係します。

ところが
超音波パルスを発し対象物からのエコーを聴いて
直接距離を感じているコウモリなどと違って、
人間には物理的距離を直接知覚する
感覚器官はありません。

網膜から入力される情報は2次元ですから、
距離に関する直接情報は含まれていないのです。

視覚から得られる距離に関わる情報には、
「絵画的奥行き手がかり」「両眼網膜像差」
「運動視差」がありますが、
これらはすべて色覚から得られている情報です。。

ということは、
色覚、形態覚、運動覚、明暗覚などはすべて
実際は「色覚」が支えていることになります。

その色覚機能で得られた信号が解読・解析されて、
色、形態、運動、明暗、質感といった
知覚として再構築されているわけです。

「視覚」の全機能は
実際は「色覚」が担っていると言えそうです。

②人の目はカメラによく似ている

その視覚を支える眼球ですが、
奥行き約24ミリメートル、
重量約7グラムのごく小さな感覚器です。

人間が外から受ける情報の80パーセント以上が、
この2つの透き通った瞳から
入ってくると言われています。

視覚機能の解説文などでは
人間の眼はよく「カメラ」に喩えられます。

【カメラ】  →  【目】

 ボディー  →  強膜(しろ目)
 フィルター →  角膜(くろ目)
 しぼり   →  虹彩(こうさい)
 レンズ   →  水晶体
 フィルム  →  網膜(もうまく)

・強膜(きょうまく):
 外側のカメラのボディに当たる部分。
 直径約24mmの眼球を覆う保護膜で
 白い硬い膜。(“白目”の部分)
 
・「角膜」:「強膜」の正面の透明部分。

・虹彩(こうさい)と瞳孔(どうこう)
 角膜の奥に見えているのが「虹彩」です。
 (日本人なら多くは鳶色の部分ですね)
 「虹彩」はカメラの絞りに該当し、
 眼の奥に入る光の量を調節しています。
 「虹彩」の中央の穴の部分が「瞳孔」です。
 「瞳孔」の縮小時と拡大時の面積比は1対16
 かなりの明暗差に耐えられそうです。

・水晶体、毛様体(もうようたい)
 瞳孔を通過した光は「水晶体」で屈折します。
 「水晶体」は厚さ5mmほどの透明の組織で、
 「毛様体」から出る細い糸(チン小帯)で
 固定されています。

 カメラのレンズは位置移動(ズーム)で
 焦点を合わせますが、
 眼球の水晶体はズームできないので、
 (マンガではときどき飛び出しますが。(^_-) )
 レンズの屈折率自体を変えてピントを合わせます。

・「硝子体(しょうしたい)」:
 水晶体の背後にあって、眼球の内部空間全体を
 充填しているゼリー状の透明な物質。
 眼球の代謝物質の通り道であり、
 眼球全体の形態保持も担当しています。

・まぶた(眼瞼):レンズキャップに当たります。

・網膜(もうまく):カメラのフィルムに相当
 視覚機能の中核を担う部分です。

③「網膜」が視覚の中核機能を担っている

「網膜」は眼球の内壁を覆う薄い膜ですが、
ここに視覚機能の中枢部分があります。

網膜には棒状の「桿体(かんたい)細胞」と
円錐状の「錐体(すいたい)細胞」という
2種類の視細胞が分布しています。

「桿体細胞」は「明るさ」を感知する視細胞、
「錐体細胞」は「色」を識別する視細胞で、
視覚機能はこの2種類の視細胞が役割分担しています。

「明るさ」は入射光の「粒子」的要素、
つまり光子量の多さできまります。

この明るさを感知する桿体細胞は
網膜の周辺部全般に約1億3000万個分布します。

それに対し「色」は光の「波」的要素、
つまり波長に反映されています。

「色」を感知識別するのは3種類の錐体細胞で
眼球の(中心窩とよばれる)視軸中心部分に
約600万~700万個分布しています。

3種類の錐体細胞とは、
420nm(青)、534nm(緑)、564nm(赤)の
電磁波長に高い感度を示す3タイプで、
それぞれR錐体、G錐体、B錐体と呼ばれます。

これらは6対3対1の割合で存在しています。

つまり色の識別能力の半分以上が
「赤」の探知に向けられていると考えられます。

④視覚は「明るさ感知」と「色識別」の2ステップ

明るさを感知する桿体細胞には
ロドプシンという色素が含まれていて
光が当たると分解し、光がなくなると再合成して
明るさ情報を送ります。

この桿体細胞の感度はきわめて高く、
照度0.001ルックス~数ルックスの暗所で機能します。

色を識別する錐体細胞の900倍と言われますが、
数ルックス以上の明るさでは飽和して動作しません。

現代の都市生活条件下では
ふつう桿体視細胞は飽和してしまい、
私たちの日常で桿体視細胞が働くのは
夜中に暗い部屋で目を覚ましたときくらいです。

視細胞が密集する網膜の中心部を「黄斑」といい、
特に視細胞が高密度に集中する黄斑の中央を
「中心窩」といいます。

色を識別する3種類の錐体細胞はすべて
この中心窩に集中して分布しています。

錐体が高密度に分布するこの中心窩が
視力の最も高い領域です。

私たち人間の視覚は
まず外界の明るさを感知する機能と、
一定以上の明るさの中で動作する
色を識別する機能の2段階で構成されています。

6.色への反応は進化の中で獲得された

①霊長類は高度な色覚を発達させた唯一の哺乳類

いろいろな動物の中でも、
色覚があるとはっきりわかっているのは
昆虫などの節足動物と脊椎動物だけと言われています。

その脊椎動物のなかでは
もともと昼行性動物であった鳥類と爬虫類は
高度な色覚をもっています。

ところが人類を含む霊長類を除けば、
じつはほかの哺乳類は今に至るまで
魚類、爬虫類、鳥類などに比べると
日中の視覚は大きく劣っているのです。

そう考えられる根拠は、
多くの魚類、爬虫類、鳥類の目の網膜には
中心窩に錐体細胞が高密度で存在するのに比べ、
(霊長類以外の)哺乳類の網膜には中心窩がなく、
暗い中で光を補足する桿体細胞が多いからです。

最近テルアビブ大学のロイ・マオール氏のチームが
現存する哺乳類2415種を対象に行った
行動様式分析の研究論文を発表発表しました。

論文によると、
最初期の哺乳類は夜行性動物で、
昼間の世界を支配していた恐竜の絶滅後に
初めて日中に活動する哺乳類が登場したそうです。

その中で完全な昼行性に移行した最初の哺乳類が
霊長類の祖先だったと考えられると。

古代の哺乳類は恐竜に捕食される危険を避けるために
何千万年ものあいだ暗闇に身を隠していた。

そして恐竜が絶滅したあとの地上世界では、
霊長類の中の人類が食物連鎖の頂点に立ったわけです。

このことは人類が高機能の色覚を獲得したことと
とても深い関係がありそうです。

②「緑」や「青」は住み慣れた生活の場の色

マオール氏たちの研究では
哺乳類は中生代末まで夜行性のままだったようです。

今から約6600万年前の中生代の終わりに
小惑星衝突とみられる大規模災害が発生し、
恐竜と地球上の生命の約4分の3が死滅したとされます。

そして恐竜が天下の時代が終わったのでしょう。

同論文によると、
霊長類の祖先の哺乳類が完全な昼行性に移行したのは
約5200万年前と推定されるそうです。

昼行性に移行した初期の哺乳類
(なかでも霊長類)の生活の場は地上ではなく、
主に樹上だったと考えられているようです。

そのため霊長類の視覚は最初は緑、
次に緑の間から見える空の色を識別するために青、
次に木の実を探しやすいように赤、
という順で獲得されたという説もあります。

樹上で生きるためには樹の枝葉をあらわす緑と
その間の隙間(空の青)を瞬時に見分けながら
移動する必要があったでしょう。

ただし、
色の発見順については別の見解もあります。
その見解では「青」は最後に発見された色とされます。

たしかに、哺乳類が枝から枝へと飛び移るとき、
見ていたのは枝であって、その間の空色は、
色とは意識されなかったかもしれません。

しかしいずれにせよ、樹上で生きる哺乳類には
緑や青は住み慣れた生活の場の色だったでしょう。

緑や青が食事や睡眠を連想させる場所の色なら
緑や青から弛緩反応が生まれるのも当然です。

遠い昔から
人は真っ暗な中では比較的安心して警戒を緩め、
外界刺激に対して鈍感になれたのでしょう。

「赤」や「オレンジ」は果実の色?

人類がいつ火を発見したかを確定するのは
とてもむずかしいことのようです。

170万年から20万年前まで広い範囲で説があります。
ただし日常的な広範囲の使用を示す証拠は、
約12万5千年前の遺跡から見つかっています。

旧石器時代と呼ばれる時代と重なり、
人類は地上で洞窟を住居としていたでしょう。

ここでは暗闇は身を隠せる安全を意味し、
また明るさは自分が外敵に身を晒している
警戒の必要性を意味したことでしょう。

錐体の900倍の感度をもつという桿体は、
いわば“寝ずの番”のような
明るさ感知機能として進化したと想像されます。

いったん明るい外界に出たら、
外界の様子をくわしく色で識別する機能である
錐体細胞が起き上がるタイミングだったでしょう。

白昼の中では空の「青色」は
無視できる範囲を意味していたかもしれません。

まわりにある「緑色」の部分は要注意領域です。
それは植物(食料)を意味する領域です。

しかしなかでも最も注目すべきは
「赤」や「橙(だいだい)」など
果実を意味する色だったかもしれません。

④それとも燃える火?獲物?危険?

すでに恐竜は存在していないにせよ、
まわりに外敵はたくさんいます。

そしていったん日が暮れると
世界は圧倒的な暗闇に覆われます。

その闇の中で遠い明かりを見つけたときは
どれほど安心したことでしょうか。それは生存の可能性そのものを
意味するように思えたかもしれません。

暗闇の中の暖かく燃える炎の色も、
木漏れ日の下の緑の中の果実の色も
ともに「オレンジ」から「赤」の暖色です。

そしてときに「赤」は、
獲物の血の色を意味している場合や、
また戦闘を暗示する危急を意味する場合も
あったかもしれません。

そんな長い歴史の経過の中で
色の識別機能を担当する錐体細胞は
「赤」を探知するための「R錐体」が
半数を超えたのかもしれません。

私たちの網膜の中心窩にある視細胞は
R錐体:G錐体:B錐体=6:3:1
の割合で存在しているのです。

⑤格闘技で赤の着用者が優位にたった理由とは?

2005年のNatureにある論文が発表されました。
2004年のアテネ・オリンピックでの4種目の格闘技
(ボクシング、テコンドー、レスリング2種目)で
赤のウエアやヘッドギアの着用選手と青の着用者で
勝率差があるかどうかを調べたところ
驚いたことに4つの競技とも
赤を着用した方が青を着用した場合よりも
勝利数が多いという結果が得られたというのです。

同レベルの能力が想定される選手の場合では、
その勝率差は20%にも広がったのだとか。

このような勝率差は
赤の着用が選手の血流量を増加させる男性ホルモン
テストステロンの濃度を押し上げた結果では
という推測も生んだようです。

しかし赤の選手が強くなったとはかぎらず、
青の選手が弱くなった可能性もありえます。

この格闘技での着衣による勝率差の研究は
その後も続き、柔道の大会での白い胴着と青い胴着
の勝率差などの調査結果も踏まえ、
青を着用した選手が弱くなるのではなく,
また青の選手と対峙した選手が強くなるのでもなく、
結局、【赤の選手と対峙した選手が弱くなる】のだ
ということが判明したそうです。

アテネオリンピックの結果を
男女別に分析し直したその後の研究では、
赤の選手の勝率が高くなるのは男性競技者の
場合だけで,女性競技者の場合は
赤の効果は生じないことが確認されたそうです。

赤い服の相手に優位性を感じるのは
優位者の位置を争わなければならない
男性のみの遺伝子に刻印されていたようです。

⑥赤は霊長類共通の優位性を示すサイン?

名古屋学院大学国際文化学部の柴崎全弘氏の論文
「ヒトはなぜ赤に反応するのか?
 —赤色の機能に関する進化心理学的研究—」によると、
赤色が優位性を示すサインになっているのは
ヒトに限ったことではなく、
他の霊長類でも確認されているそうです。

マンドリルは鼻口部が赤くなっており、
通常、群れの中で最上位のオスが最も鮮や
かな赤色をしているそうです。

この特徴は,アルファオスの座の保持期間が長く
なるほど顕著になり、またそれまでの最上位オス
との争いに勝ったオスがトップの座につくと、
鼻口部の赤みが増してゆくのだそうです。

どうやら霊長類の長い進化の歴史の中で
人は赤い色を見ると一種の警戒モードに入り、
テストステロンを放出し
心臓の鼓動を速めて臨戦態勢に入るような
スイッチがオンになるかもしれません。

アメリカ合衆国のアリゾナ州で発見された
マンモスの化石の骨の間から、
石でできた槍の穂先が見つかっているそうです。

この化石は約1万2千年前のものと考えられ、
当時マンモスが狩猟対象だった証拠とされています。

マンモス狩りは集団で行う狩だったでしょう。
果敢にマンモスに挑戦し続ける者たちの中で
最後にとどめを刺した者は全身に血を浴び
真っ赤に染まっていたことでしょう。

全身赤く染まった彼こそは
その集団の中の勇者であったに違いありません。

武士の“赤備え”とは
そのような遠い記憶を反映させた勇者の印
だったのかもしれません。

7.色のイメージ

①色には複数のイメージがある

「暖色・寒色」といったネーミングを聞けば
誰もがその意味合いをすぐに納得します。

そのように色のイメージには
人類共通のある種の普遍的側面があり、
原始時代からの人類の集合的体験が
大きく影響しているのは間違いありません。

特に赤、白、黒は
生死の体験と深く関わっていたためか、
多くの社会に共通したイメージがあるようです。

とはいえ、他の色ではそうでもなく、
社会集団によって連想や象徴性はかなり異なり、
色のイメージは多様化します。

色のイメージの由来として
3つの背景(あるいは層)が考えられます。

1.人類が進化の過程で蓄積してきた色の情報。
  例:燃える火(の赤)は熱い。
  
2.地域・国・文化圏で伝承してきた色の連想。
  例:黒猫は不吉の象徴。
  
3.個人が記憶している色の体験。
  例:桜の花は母が死んだ日を思い出させる。

色のイメージは、
たしかにそこに普遍的側面もありますが、
万人に共通するものはありえないと言えそうです。

②色に異なるイメージがある理由1:態度から生じる対極性

たとえば、「黒」の原初的イメージは
原始時代の闇の体験に由来するでしょう。

闇を恐ろしいものと捉えるなら、
「黒」は恐怖や悪魔など禍々(まがまが)しいイメージに
つながったはずです。

しかしその闇を恐れることなく
果敢に立ち向かう者もいたことでしょう。

そのような勇気を示した者は、
やがて集団を率いる勇者なって、
「黒」は彼の「強さ」や「頼もしさ」を
連想させる色となったかもしれません。

その圧倒的な強さの恩恵にあやかりたい気持ちが
「黒」のイメージに加わったことでしょう。

多くの文化圏で「黒」や「赤」は
権力者や権威の象徴となっています。

黒は教義を堅心する聖職者の衣の色や
強さによって上下の関係の優位性を示す
上流社会の色として発展してゆくのです。

色のイメージが多様化するのは
同じ色に常に相反するイメージがあるからです。

時代の変遷の中で形成された
1つの色に対する相反するイメージが、
後の時代の私たちには、
同じ色に同時に混在する対極的イメージのように
感じられるわけです。

③色に異なるイメージがある理由2:質感から生じる多義性

たとえば、「赤」と言っても、
実際に物として存在する赤い色は、
色合い、質感、陰影など、
それこそ無限の多様性の中で存在しています。

もちろん、私たちは
暗黙の前提としてそのことを知っています。

とはいえ色について語るには
色を指す言葉(色名)で伝えるしかありません。

しかし交わされる言葉の限界のため、
語り手が実際どんな色を指しているのかは
本当のところはわからないわけです。

たとえば古い文献に「緑」と書かれていても、
それは青を指していたり、
濁った灰色がかった緑を指していたり、
鮮やかな黄緑を指していたりと
実際にはかなり異なっているのだそうです。

またそれが織物なのか顔料なのかでも
質感は大きく違ってきます。

また民族や時代によっても
命名される色の領域自体もずれることでしょう。
国によって虹の色の数も違うようです。

また生活圏による連想野の違いも
色の命名に大きく影響を及ぼすはずです

アイヌ語には色彩を表す言葉が黒、白、青、赤の
4つしかないそうです。
逆にカナダ・エスキモーが雪を指す言葉は
語幹として20種類以上もあるのだとか。

こうしたさまざまの背景があって
1つの色に多様なイメージが混在することになります。

④古代人は色とその物体を切り離しては考えられなかった

古代の人々にとって、
「物」とその物の「色」は
切り離しては考えられないものでした。

工業化した世界に住む現代人には
知らず識らずのうちに、
同じデザインの服の色違いがあったり、
同じ形の焼き物に別の色付けがあったりするのを
当然のことと受けいれる感覚があります。

「物」とその物の「色」を区別し、
「色」を「物」の交換可能な付加要素のように
考えることに慣れているのです。

古代人にとって物の色は
取り替え可能な符号のようなものではなく
物そのものの生命性を意味していました。

いまでは地上からほとんど姿を消した
原住民の人々は写真を撮られるのを恐れました。

姿形を持ち去られることは、
命を失うことに等しかったのでしょう。

古代の人々の色に対する感じ方は、
私たち現代人の色の感じ方とは
まったく別物だったと理解する必要がありそうです。

戦いに臨む者が
強者のシンボルの色を身にまとうのも
強さそのものを身に帯びることだったでしょう。

そして現代人の私たちも
そのDNAを引き継いでいるからこそ、
無意識のうちに色の影響を受けているのでしょう。

⑤古代人にとって色は呪術だった

人類が意識的に色を使いはじめた時期は
明確ではありませんが、
約7万年前(第㈼氷河期の末頃)の
ネアンダール人には埋葬の習慣があり、
遺骸は赤褐色(赤土)や黒(木炭)で
飾られていたと言われます。

この習慣は後のクロマニヨン人にも見られ、
赤、白、黒、黄が呪術的な役割をもって
使われていたようです。

『金枝篇』の著者で英国の文化人類学者
ジェームズ・フレイザーは、
古代の呪術を定義する「共感呪術」という概念を
提唱しました。

そして共感呪術を「類感呪術」と「感染呪術」の
2つに分類しました。

「類感呪術」とは、
類似したもの同士は影響しあうという発想
(「類似の法則」)にもとづく呪術です。

たとえば、雨乞いをする呪術師は、
黒雲の黒い色にならって黒い色の服を
身にまとって儀式を執り行ったようです。

口紅の歴史は古く、紀元前10万年前から
人類は悪魔が口や耳から入ってこないように
赤いものを塗る習慣があったといわれます。

赤のもつ強さのイメージが魔除けとして
使われたのでしょう。

フレイザーが提唱する「感染呪術」とは、
元々1つだったものや一度接触したもの同士は、
遠隔地においても相互に作用しあうという発想
(「接触の法則」)にもとづく呪術です。

誰かの着衣、爪、髪の毛、歯などを呪術に使えば、
その元の持ち主に影響を与えたり、
その持ち主からの影響を受けたりすることができる
と考えられていたのでしょう。

戦いに臨む者たちが
その集団の勇者のシンボルカラーを身に塗るのは、
強さのイメージの影響を受けたいとも、
勇者の持ち物にあやかりたいとも解釈できます。

類感呪術も感染呪術もともに
「共感(共振の)呪術」と括られる理由です。

⑥赤(Red)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
赤 625-780 nm 405-480 THz 1.65-2.00 eV
(国際照明委員会 (CIE) は700 nm の波長を
 RGB表色系においてR(赤)と規定しています。)

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 強い、情熱的、明るい、活動的、
 愛、歓喜、勇気、防御、豪胆、忠節
 
・中立的表現のイメージ:
 熱い、派手な、興奮、緊張、エネルギー、
 血、太陽、炎
 
・否定的含意のイメージ;
 危険、けばけばしい、闘争、怖い、怒り、
 嫉妬、欺き、制御、操作、悪魔

【中核のイメージ】

「赤」と聞くと何を思い浮かべますか?

「太陽」が空を染める朝焼け・夕焼けの色?
それともリンゴなど赤い「果実」の色?
あるいは、「血」の色でしょうか?

霊長類が赤に敏感になった理由の1つは、
熟した果実と、未熟な果実や食べられない植物を
区別できる必要からという説もあります。

「赤」には時代や民族を超えて、
力やエネルギーに関連する普遍的象徴性があり、
白・黒と並んで最も重要な色です。

哺乳類の血の色が「赤」である意味は
とても大きいでしょうね。

出産時の血は生命の誕生を意味しますし、
怪我などで流れる血は死を意味して、
どちらも命に関わる緊急事態です。

古代の人々が生き物の命を
「赤」が司ると考えたのもわかります。

「赤」に魔術的な力があるという考えは
洋の東西を問わずあるようです。

「血」のパワーは「赤」のパワーとなり
赤が治療や魔除けに使われていきます。

「あか(赤)」の中核的なイメージとしては
「太陽」「炎」「朝焼け・夕焼け」の色、
「血液」「果実」「花」「紅葉」の色
といった感じでしょうか。
赤は、赤い血液、太陽、炎といった
生命に直結する体験が関わる色なのです。

【語源】

「赤(あか)」という色名は
「明(アカ)るい」「明ける」に通じるとされ、
「白地に赤く」の日章旗が日本の「赤」なら、
日本の「赤」は「太陽」の色ですね。

「紅(べに)」:紅花の染め色です。
「朱(しゅ)」:茜(あかね)色の一種。
「丹(に)」:辰砂(しんしゃ)、硫化水銀鉱の色。
「緋(ひ):㈰ 茜(あかね)で染めた色。
      ㈪ 黄の下染めに紅花で染めた色。火色。

サンスクリット語の「ルヅラ(rudh-ra)」は
「血」を意味するそうですが、
この頭文字の「R」がヨーロッパ11カ国の
「赤」を示す単語につながっているそうです。

英語:red、ドイツ語:rot、
フランス語;rouge、オランダ語:rood、
ラテン語:ruber、イタリア語:rosso

漢字の「赤」は、
「大」と「火」の組み合わせだそうです。
「大」は人が手足を広げている形で、
「赤」は下に火をくべている様子です。
穢(けが)れを祓い清める儀礼の会意文字だとか。


【地域的・歴史的イメージ展開】

古代エジプト人とマヤ人は
儀式で顔を赤く染めた染めたそうです。

古代ローマでは指導者が魔除けの目的で
赤い服を着用したそうです。
インカ帝国でもミイラを守護色の赤い布で
巻いていたと言われます。

ローマの将軍は勝利を祝うために
体を赤く着色しました。

ルネッサンスでは、貴族と裕福な人々は
鮮やかな赤で染めた衣装を着用しました。

19世紀には最初の合成赤色染料が導入され、
赤は共産主義と社会主義を象徴する色になります。

1917年のボルシェビキ革命後
ソビエトロシアは赤旗を採用し、
その後中国、ベトナム、他の共産主義国が
それに続きます。

赤は血の色であるため、歴史的に
犠牲、危険、勇気と関連づけられます。

ヨーロッパと米国での最近の調査では、
赤は熱、活動、情熱、セクシュアリティ、怒り、
愛、喜びの連想させる色です。
中国、インド、その他多くのアジア諸国では、
赤は、幸福と幸運を象徴する色です。

アジアの国々では今も戸口に赤い紙や塗料で
厄除けの印をつける風習があります。

日本では祭りのとき子供の額に赤い印を塗り、
神社の鳥居の赤、祝いの時の赤飯の小豆など、
多くの魔除けや病気除けの伝統が残るなど、
赤は最強の呪術色だったようです。

【天然染料】

・主な染料は紅(べに)、臙脂(えんじ)。
 紅花(べにばな)から抽出する「紅」は
 最も古い染料の一つ。

【画像装入】

 紅花:紅だけで染めた色を本紅と呼び、
    茜染めや蘇芳染めを偽紅と呼んだ時代も。
 
 臙脂:ラックやコチニールなどの
    カイガラムシから作られる染料。
    ラックは熱帯性植物に寄生する虫。
    コチニールはサボテンの石につく虫。

【天然顔料】

・顔料は朱(しゅ)。
 朱は硫化水銀の原鉱の辰砂から取れる顔料。

⑦桃色(Pink)のイメージ

【波動域】

 物理的にはピンクの周波数というのは存在しません。
 プリズムで赤と青(紫)を重ねるとピンクになる
 ことを最初に発見したのはニュートンでした。
 
 色相環では赤と紫の中間がピンクに見えます。
 https://bit.ly/3JKTc3O
 
 可視光線の範囲内で最長波長(赤)と最短波長(紫)
 の平均を取ると緑になります。
 
 しかし可視光線の範囲外は人間の目には見えません。
 つまり可視光線の範囲外の全体を表現する色として、
 脳は緑の補色のピンク色を作っているわけです。
 
 ピンクは「マイナス・グリーン」とも言えます。
 それは白色光から緑色光を除いた合成色が
 ピンクとマゼンタだからです。
 
 とても不思議というか意味深な現象ですね。

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 可愛い、優しい、思いやり、親切、愛と気遣い、
 無条件の愛、自己受容、女性的直感力
 
・中立的表現のイメージ:
 女性性、母性、繊細、赤ちゃん、恋愛的、感情的、
 甘い、ロマンチックな、傷つきやすい、
 
・否定的含意のイメージ;
 甘え、わがまま、子供っぽい、意地悪な、
 いやらしい、性的耽溺、エロティックな、
 愛の渇望、戦略行動、承認欲求、

【地域的・歴史的イメージ】

英語の pink は、ナデシコの意味です。
17世紀後半に色名として初めて使用されました。

シェークスピア時代にこの色名は存在せず、
後にナデシコの花の色を指してpink、
つまり「なでしこ色」と呼ぶようになりました。

英語ではピンクは健康、活力、極致といった
連想を伴う元気なプラスイメージの言葉です。

英語以外の多くのヨーロッパの言語では、
バラを意味する語を使うようです。
「ばら色」と呼んでいることになります。

連想としては、「バラ色の人生」と言えば、
喜びや愛に満ちた最高の人生を意味します。

「ピンク」は、ヨーロッパと北米の調査では、
魅力、礼儀正しさ、敏感さ、優しさ、
甘さ、子供時代、女性らしさ、ロマンスと
最も関連づけられる色のようです。

ピンクと白の組み合わせは純潔と無垢を、
ピンクと黒の組み合わせはエロティシズムと誘惑
を連想させるようです。

日本語では、小学校のクレヨンの色は「桃色」
でした。(現在は「ピンク」ですね。)

ピンクは温もりを感じさせ、幼い子供の肌に
も似て、可愛いらしさや健康を連想させます。
若い女性が好きなベスト5に必ず入る色です。

歴史的には濃い色の価値が高かった日本では、
薄い色のピンクは軽んじられたようです。

それには、古代には
①呪術的に濃い色が尊重されていたこと、
②紅花染めがとても高価だったこと
の両方が関係していたようです。

日本ではピンクにエロティックなイメージが
あります。
1960年代に「ピンクサロン」や「ピンク映画」
という言葉が誕生しました。

現在は乳がん撲滅運動の「ピンクリボン」の
色になっています。

時代ともに色のイメージも変遷しますね。

【天然顔料・染料】

・紅花染のうち薄い染め色の色名に、
 一斤染:一斤(一握り)程度で絹二反を染めるの意。
 桃色(粗染):紅花染の残り糟で染める“粗染”とか
        染色回数が少ない“荒染”の説あり。

⑧橙(Orange)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
橙色 590-625 nm 480-510 THz 2.00-2.10 eV

【言語的イメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 暖かい、明るい、にぎやか、陽気な、元気、
 健康的、可愛い、楽しい、親しみやすい、
 
・中立的表現のイメージ:
 オレンジ、みかん、果物、ビタミン、人参
 ハローウィン、セクシャリティ
 
・否定的含意のイメージ;
 安っぽい、低俗な、優柔不断、自己信頼の欠如

【中核的イメージ】

「白地に赤く」の日章旗が国旗の日本では、
太陽の色は赤だということになっています。

でも子供のころ「太陽の色は赤じゃないよ」
なんて思ったことはありませんか?

実際、同じアジアでも日本のように太陽を
赤で表現する国は少数派です。

欧米諸国と同じく、中国や韓国でも黄色や
オレンジで表現されることが多いようです
(タイは日本と同じ太陽は赤い派)。

特に光を放つ炎の色は「赤」というよりは、
「赤黄」または「黄赤」の感じですよね。

暖かさとの結びつきが最も強いのは橙色で、
近年の調査で最も暖かいと感じられる色は
オレンジという結果が出ているそうです。

一方で、高貴な色となってきた赤に比べ、
強さが薄れて温かみを感じさせる橙色は
親しみやすさにつながり、それが安っぽさ
につながる面もあるようです。

「橙/オレンジ」の中核イメージは
太陽の光の明るさ暖かさ、
色づいた柑橘類の明るく元気な感じでしょうか。

【色名の語源】

「orange」:サンスクリット語の「ナランガ」
      からの派生語。
      ナランジャ(スペイン語)
      ラランジャ(ポルトガル語)

「橙」:(蜜柑の一種)橙(だいだい)の色。
「蜜柑色」:蜜柑(みかん)の色。
「柑子色」;(蜜柑の一種)柑子(こうじ)の色。
      蜜柑色よりも古い伝統色名。
「柿色」:柿の果実のような鮮やかで濃い橙色。

【イメージの歴史的展開】

古代のエジプトやインドでは、
オレンジ色が使われていたようです。

ヨーロッパでは色名の「オレンジ」は
1512年に登場するそうです。
それ以前は単に「黄赤色」と呼ばれていました。

15世紀後半から16世紀初頭にかけて
ポルトガルの商人がアジアから初めて
オレンジの木をヨーロッパに持ち込み、
サンスクリット語のナランガから
「オレンジ」の色名が使われ始めます。

1872年クロードモネが「印象」「日の出」で
オレンジの光を描き、印象派運動が起こります。
以後オレンジは印象派画家の重要な色になります。

ヨーロッパとアメリカでの調査では、
オレンジには、
娯楽、型にはまらない、外向的、暖かさ、火、
エネルギー、活動、危険、味と香り、秋の季節
といった連想があるよううです。

東洋では黄色から濃いオレンジ色の赤まで、
サフラン色と呼ばれる多種多様な色は、
ヒンドゥー教と仏教に密接に関連しており、
アジア中の僧侶や聖者の着衣の色とされます。

ヒンドゥー教では、クリシュナ神は一般的に
黄色または黄色のオレンジ色の服を着て描かれます。
黄色とサフランはサドゥー(インドの放浪僧)の
着衣の色です。

仏教では、僧侶の着衣のサフラン色は、
紀元前5世紀に仏陀自身と信徒によって定められました。

日本では「柑子色」系の色は好まれていました。
(柑子はミカン科の常緑小喬木で、果実は
 温州ミカンより小さく、味は淡白。)

最も有名なのは皇太子の礼服に用いられる禁色で
「黄丹(おうに)」という色です。
西洋では「mikado」とも呼ばれます。

【画像装入】

「黄丹」は紅花と梔子(くちなし)で染められた
れた橙色で「柑子色」よりも赤みが強いです。

日本ではこの黄赤の系統は好まれていますが、
西洋では黄赤系はそれほど人気がなく、橙系には
東洋を感じるようです。

⑨茶色(Brown)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
橙色 590-625 nm 480-510 THz 2.00-2.10 eV
(茶色は橙色系の明度の落ちたものです。
 明度は振幅の反映なので橙色の振幅縮小版が茶色。)

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 落ち着いた、堅実な、安心する、
 渋い、おとなしい、古い、
 
・中立的表現のイメージ:
 自然な、固い、地味な、保守的な、マイルドな、
 平凡な、土、根っこ、焦げた
 
・否定的含意のイメージ;
 古い、田舎臭い、陰気な、汚い、


【中核のイメージ】

現代人の都会の風景は別ですが、
人間が樹上で生活した原始時代から
地上に降りて生活をはじめた時代をつうじて、
茶色は緑色とともに最も身近に見られる
ありふれた自然の色だったでしょう。

それは拠り所としての樹木や洞窟の色であり、
また食物となる植物を育む大地の色です。

そんな過去の長い集合的経験から、
私たちは茶色に、安心、落ち着き、温もりを、
どっしりとした安定感を感じるのでしょう。

と同時に、身近で最もありふれた茶色は、
落ち葉や死体が腐敗した泥、
山火事の後の焼き尽くされた樹木、
糞など汚物の色といった厳しい自然を
連想させる色でもあります。

それは生命の起源と帰り着く先を同時に表す色、
生命の循環そのものを支える色なのでしょう。

「茶色」の中核イメージは、
大地、土、泥、落ち葉、樹木、腐敗、焦げ色、
死骸、糞、汚物といったところでしょうか。

【色名と語源】

英語の「brown」は、焦げた色を意味する
「brun」という言葉に由来するらしく、
10世紀前後から使われた古い色名のようです。

「brown」が形容詞になると「陰鬱な、憂鬱な」、
「brown off」は「うんざりさせる・立腹させる」
という意味になるらしく、英語圏では
茶色は好まれない色だったようです。

「茶色」:茶を染料として使った色。江戸では抹茶色。
     京坂では煎茶の煮がらしの色。
「褐色」:「褐」は麻や葛(くず)などの繊維でできた
     みすぼらしい衣服を意味する字。
     この衣服の土で汚れたような色が「褐色」。

【イメージの歴史的展開】

この茶色に対するイメージは、欧米人と
日本人の間でかなりの違いがあるようです。

褐色系のその他の古い色名も、
狩猟民族が身近に知っている動植物の名前を
そのまま使ったものが多いようで、
要するに必要に応じて使われた色名です。

ヨーロッパと米国の世論調査によると、
茶色は一般に最も嫌われる色のようです。

手軽、素朴、糞便、貧困が連想されるようです。
ポジティブな意味合いでは、
パン作り、暖かさ、野生生物、秋が連想されます。

一方、日本では古くから
この褐色系の色は愛好され求められる色でした。

代表的な「黄櫨染(こうろぜん)」という色名は
天皇が儀式の際に着用する正式な袍(ほう)の色
として平安時代初期(820年)に現れています。

令和天皇の即位礼正殿の儀にも引き継がれています。
https://bit.ly/3u7G95Y

日本人は茶色に対して、生活上の必要よりは、
むしろ美意識的な関心を向けたようです。

平安時代の貴族が愛した「朽葉色(くちばいろ)」
という色名があります。
この色名は貴族たちの栄華を誇る思いよりは、
むしろ朽ちていく葉の色に命の儚さを認め、
それを受け容れ、美しいと感じる日本人独自の
美意識を感じさせます。

「茶色」という色名自体は、
お茶が庶民に広まった江戸時代に誕生しました。

この茶色がどれくらい関心の的だったかは、
「四十八茶百鼠」という言葉に現れています。

当時これほど多くの茶色が現れた直接の原因は
江戸庶民の贅沢を制限する目的で江戸幕府が出した
「奢侈(しゃし)禁止令」にあります。

庶民の着物の色・柄・生地・値段に規制をかけ、
庶民の着物の色を茶、鼠、藍のみとしたのです。

江戸庶民はその制限を逆手にとって、
「渋さ」を粋の文化として昇華させたわけです。

当時の人気歌舞伎役者が舞台で身に着けた茶色は
役者色(「路考茶」「芝翫茶」「団十郎茶」など)
として大流行したようです。

⑩黄(Yellow)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
黄色 565-590 nm 510-530 THz 2.10-2.17 eV

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 明朗、希望、喜び、暖かさ、幸福、躍動、
 賑やか、
 
・中立的表現のイメージ:
 太陽、光、子ども、お金、信号、バナナ、レモン
 
・否定的含意のイメージ;
 幼稚、注意、軽率、騒がしい、イライラする、臆病、

【中核のイメージ】

現代の子どもに「黄色は何の色?」と聞けば、
「レモンの色」と答えるかもしれませんね。

でも古来、黄色は
①「太陽」の色、「光」の色でした。
 白が光の明るさを代表するなら、
 黄色は明るさと暖かさを代表するでしょうか。

ついで黄色は、
②腐食しない「黄金」を連想させる色でした。
 黄金は不死や永遠を意味しました。
 
そして農耕民族にとって黄色は、
③「実り」「豊穣の大地」「食べ物」の色でした。

かくて黄色の中核的イメージは
明るさ、普遍性、エネルギー、喜び、希望、幸福
になったのではないでしょうか。

【地域的・歴史的イメージ展開】

黄色は国や地域で異なる歴史・文化・
宗教などの影響を大きく受けて、
東西でイメージが大きく異なる色です。

古代エジプトでは、黄色は金に関連づけられ、
金は不滅で永遠で破壊不能と考えられていました。

古代ヨーロッパのギリシャ文化では
黄色は神官や巫女が身につける色であり、
その流れを引き継いだエーゲ海文明でも、
明るい黄は結婚の永続性を意味するなど、
黄色は高貴で神聖な色でした。

初期のキリスト教教会では、黄色は
教皇と王国の黄金の鍵に関連づけられましたが、
黄色はイエス・キリストを裏切った弟子ユダの色
として確立され、異端審問官の色として使用されます。
黄色に、妬み、嫉妬、二枚舌の連想が生まれます。

黄色は歴史的に金貸しと金融に関連付けられてきました。
20世紀、ナチス占領下のユダヤ人は
黄色い目印を身に着けることを強制されます。

ヨーロッパ、北米などの調査では、
黄色は娯楽、優しさ、ユーモア、幸福、自発性
などポジティブな連想がある一方、
嫉妬、嫉妬、貪欲、(米国では臆病)なども
連想させるようです。
イランでは、蒼白、病気、知恵を連想させます。

アジアやエジプトでは黄色の
中核的イメージがそのまま根づき、
永遠の豊かさを連想させる色でした。

中国や多くのアジア諸国では、
黄色は幸福、栄光、調和、知恵の色として
見られています。

中国では、明るい黄色が権威の色であり、
皇帝とその家族だけが着ることができました。
中国でも仏教寺院を表すようです。

仏教国では僧侶の衣の色であり、
初期の仏教教団では高僧はサフランで染めた布を
身にまとう決まりで、黄色は大切な色でした。

ヒンドゥー教でも修行者が黄色の衣を
身につける習慣があります。

これら農耕民族の地域では、
「太陽の光」「黄金の色」「豊作の色」という
黄色の中核的イメージがそのまま積み重なり、
大いなる力の神の世界や永遠性、豊かさの象徴性
としての光の色のイメージが保たれています。

中国には「陰陽五行」という思想体系では
黄色は万物の中心、太陽と富の象徴であり、
また大地の色として最高権力者の色であり、
「木火土金水」の中央に位置する「土」の色です。

日本でも、黄色を王家の色とした沖縄王朝も含め、
他での使用を許さない禁色でした。

緑とともに黄色のイメージが激変したのが
ヨーロッパ中世です。

ここで黄色は、狂気や裏切り、偽善、異端、妬み、
臆病といった負のイメージに変化します。

中世の文献での黄色のイメージは、
男性の色としては豊かさを意味する反面、
女性の場合は幼稚や偽りを意味するのです。

その背景には黄金の豊かさのイメージと、
キリスト教社会が「金貸し」という“卑しい”
仕事をユダヤ人にのみ許したことによる
価値観のねじれの心理があるかもしれません。

黄色は黄金(30シェケル)を得るために
イエスを裏切ったとされるユダの色とされ、
絵画ではユダの衣は黄色で表現されていきます。

一方、実際には黄色は当時の
下層庶民が身につける生成り羊毛の色であり、
またくすんだ黄は糞尿の色にもつながります。

濃い黄色は派手で目立つため、
娼婦など被差別者が着用する色に指定されます。

かくて中世末の紋章協定で、黄色は
「すべての色の中で最も醜い色」とされるのです。
現在でも英語のイエローは俗語で臆病者を
意味するそうです。

ルネッサンスを経て、
緑と同じく黄色のイメージも復権し、
ゴッホやゴーギャンが好んで使う色になります。

【黄色の顔料】

・黄土は紀元前4万年頃から
 洞窟壁画などで登場する入手しやすい顔料です。

【黄色の天然染料】

・ヨーロッパではサフランが愛好されます。
・日本では黄蘗(きはだ)、ウコン、梔子、刈安。
 黄蘗はミカン科の樹木で樹皮が染料となり、
 ウコンは根が、クチナシは実が染料となります。
 刈安はイネ科の多年草で実が染料となります。

⑪緑(Green)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
緑 500-565 nm 530-600 THz 2.25-2.34 eV

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 自然な、やすらぎ、落ち着き、癒し、若さ、
 さわやか、新鮮、安全、平和、健康、公平、

・中立的表現のイメージ:
 平凡、森、植物、菜園、ピーマン、きゅうり、
 信号、カビ、
 
・否定的含意のイメージ;
 未熟、嫉妬(「緑色の目をした」)、自分本位

【中核イメージ】

「緑」は(緑色の、特に新緑のころの)
草・木、新芽・若葉、植物一般を指す言葉で、
転じて森林、自然などを指す語として使われます。


森林浴という言葉がありますが、
「緑」という色のエネルギーを仲介に、
それぞれ酸素と二酸化酸素を放出する植物と動物が
互いに補い癒やし合う関係が成り立つのでしょう。

【語源】

和語のミドリは、ミヅ(水)の派生語で、
もとは水分の多い感触を表す語で、みどり児、
みどりの黒髪に残るミドリは色ではないそうです。

ミドリは漢字で「緑・翠・碧」と表記されますが、
緑 – 植物系の暖かいみどり色。
翠 – カワセミの羽のような光沢のある高貴なみどり色。
碧 – 石のような無機質な冷たいあおみどり色。
をそれぞれ指すようです。

英語の「Green」も「草(grass)」や「育つ(grow)」
と語源を同じくすると言われます。

古代アラビア語では「緑」「植物」「楽園」は
同じ語源をもつ言葉なのだそうです。


【地域的・歴史的イメージ展開】

古代ヨーロッパでも森や草原に対する
自然信仰的な感性はあったようです。

しかし中世になってヨーロッパでは、
緑は黄色と同じ不運に出会います。
緑は「不運を招く色」、悪魔、毒、不実な愛
を意味するようになります(この連想から
今でも緑を嫌う人もいるそうです)。

これには純粋性を尊び混色を嫌った
キリスト教文化も関係があったようです。
中世には単独で緑を美しく染められる染料が
存在しなかったからです。

また移ろいやすい自然を代表する緑色は
自然との戦いをイメージする人々には
制御できない自然の脅威、運命の力と感じられ、
緑色に「不安定」「浮気」「裏切り」なども
連想させたのかもしれません。

西欧では人を振り回す偶然に関わるもの
例えば賭博のテーブルの色とつながり
お金を象徴する色ともなったようです。

近世ヨーロッパでは一般的に、富、商人、
銀行家、紳士などを連想させました。

また伝統的にゲルマン文化の色でした。
それは歴史的にイスラム教の色でもあり、
ほぼすべてのイスラム諸国の旗に見られます。

西欧諸国とイスラム諸国での調査では、
緑は自然、生活、健康、若者、春、希望、嫉妬
を連想させる色です。

欧州連合と米国では、
緑は毒性や健康状態の悪化を連想させますが、
中国や大部分アジア諸国では、
他産性や幸福のポジティブな象徴です。

現在ではそれは環境運動の色です。
緑は伝統的に安全と許可を意味する色です。
緑色の信号は進行を意味し、
グリーンカードは米国での永住を許可します。

山岳信仰ももつ日本人の汎神論的感性は
自然の緑に対して素直に表現されました。

【緑の天然顔料・染料】

・顔料の代表は緑土とマラカイト(孔雀石)。
・染料で美しい緑を発し着させるため藍と苅安など
 青系と黄系の染料を掛け合わせる方法が用いられた。
 緑単独の染料は少なくクロウメモドキという
 落葉低木の実が原料のサップグリーンが唯一の単独染料。

⑫青(Blue)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
青 450-485 nm 620-680 THz 2.64-2.75 eV
(国際照明委員会 (CIE) は435.8nm の波長を
 RGB表色系での青(B)と規定しています。)

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 冷静、神秘的、知的、爽やか、信頼、自由、
 平和、誠実、正直、率直さ、単刀直入
 
・中立的表現のイメージ:
 澄んだ、遠い、真面目な、空、海、制服、
 
・否定的含意のイメージ;
 悲しさ、寂しさ、冷たさ、孤独、
 Blue→憂うつ、わいせつ

【中核イメージ】

澄んだ昼間の「空」と「深海」は、
レイリー散乱という光学効果で青く見えます。

また空気遠近法と呼ばれる別の光学効果で、
遠くのものは「青み」がかって見えるのです。

「青」の中核的イメージは、
晴れた日の「空の色」「海の色・水の色」、
そして「遠くの光景」でしょうね。

【語源】

「青(あお」:空や海の色、瑠璃色などの総称。
「蒼(あお)」:干した青草の色、くすんだ青色。
「碧(あお)」;青く澄んで見える石。
 
やまと言葉の「あお(あを)」は、
「しろ(顕色)」「くろ(暗色)」「あか(明色)」
とともに古くから用いられてきました。
古代では現在の青色・緑色・紫色・灰色を指す
広範囲の色の総称(漠色)だったようです。

アイヌ研究家の片山龍峯氏の説は、
日本語のアオは「アフ=会う・合う」と、
連用形の「アヒ=間(隣合うの意)」とも関連し、
アイヌ語のアフ(会)の他界観との関連を指摘。
 
片山氏は、日本語のアオは黒と白の中間の色
「間(アヒ)」からきているといいます。
沖縄の青もこの「アヒ(間)」から派生していて、
大和・アイヌ・琉球における「アオ」の語源は
同じところから派生しているとしています。

【地域的・歴史的イメージ】

自然の美しさを担う「青」は
世界中で好きな色のベスト3に入るそうです。


普遍的な青の体験といえば空と水の体験でしょうが、
これは“掴めないもの”の体験でもあります。

頭上に広がる空、彼方の海、深い水底など
不思議で神秘的な感覚だったに違いありません。

そんな水辺の涼しさや空や海の広大さの体験は、
人間の小ささを感じさせて、
青の孤独感や鎮静的イメージにつながったでしょう。

青の染色技術が未発達だったヨーロッパでは
美しい青はとくに重要だったようです。
ラピスラズリを砕いて顔料とした青は
「ウルトラマリンブルー」と呼ばれて珍重され、
絵画ではマリアの衣の色と指定されていました。

19世紀になると、青色の合成染料と顔料が
徐々に有機染料と鉱物顔料に取って代わります。

そして1892年には「ロイヤルブルー」が
イギリス王室公式の色に制定されます。

こうした青への憧れが幸福へとつながり
青い鳥の話が生まれたのでしょう。

ただし冷たさや影のイメージもある青には
負のイメージの歴史もあります。
英語のブルーデビルは鬱病のことで、
発病すると青い悪魔を見ると信じられました。

米国とヨーロッパでの調査によると、
青は最も一般的に
調和、忠実さ、自信、距離、無限大、想像力、
寒さ、悲しみに関連する色です。

同調査では、青が最も人気のある色であり、
男性と女性のほぼ半数が好きな色に選んでいます。

青が黒よりも男性に関連づけられ、
知性、知識、落ち着き、集中力に
最も関連する色であることがわかりました。

藍染は「ジャパンブルー」と呼ばれました。
お雇い外国人ロバート・W・アトキンソンが
日本に藍染めの衣類が多いことを見て、
こう呼んで称賛したことから生まれた表現です。

明治時代に来日しやがて日本に帰化した
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)も、
「日本は藍の国だ」と言ったといわれます。

【青の天然顔料・染料】

・顔料はアズライト(藍銅鉱)、ラピスラズリ。
・染料は藍が世界中で最も古くから使われています。

⑬紫(Violet)のイメージ

【波動域】

色 波長 周波数 エネルギー
紫 380-450 nm 680-790 THz 2.95-3.10 eV
(これより波長が短いものを紫外線といいます。)

【言葉のイメージ】
 
・肯定的含意のイメージ:
 高貴な、高級な、神秘的、正式な、不思議、
 優しさ、女性的、信頼、確実性、創造性、
 気品、厳粛、崇高、霊的、宇宙、精神、
 
・中立的表現のイメージ:
 妖艶、和風、大人、皇族、贅沢、ファンタジー
 古典的、都会、ぶどう、なす、
 
・否定的含意のイメージ:
 病気、死、不吉、低俗、悪趣味、派手、
 悪魔、孤独、

【中核イメージと語源】

「紫」は赤と青の中間に現れる色ですが、
現代人が身近に体験できる自然の色としては
藤、菖蒲、桔梗など花の色、
ブドウ、ナスなど食べ物の色でしょうか。

しかしそれが紫の中核的イメージの源泉とは
ちょっと思えません。

古代の人たちの印象に残った紫色は?
朝焼け夕焼けで一瞬空に現れる色……。

現代人が気づかない重大な体験があります。
それは打ち身や内出血の一時的紫斑や、
最期を予告する死斑として人体の表面に
一時的に現れる紫色です。

一方は太陽光の変化の中につかの間現れ、
他方は血の色の変化の中に一瞬現れる色です。

おそらく、紫色の原初的イメージは
「神秘性」「不思議さ」「重大性」「不吉」
「不安感」だったのではないでしょうか。

色名の「ムラサキ」は紫草の和名です。
紫草(花の色は白です)は群生する植物なので
“群(むら)咲き”と呼ばれたようです。

紫を指す英語は「パープル (purple)」と
「ヴァイオレット (violet)」の2つあります。

英語の”purple”は赤味の強い紫(マゼンタ)で
日本の京紫に当たります。
ニュートンが定義した虹の7色のうち、
最も短波長側の色の紫は”violet”で、
これはスミレ色ですから青味の強い紫で、
日本語の江戸紫に相当します。

【地域的・歴史的イメージ展開】

紫色は不思議で神秘で、ときに不吉、ときに
魔術的なパワーを感じさせる体験だったようです。
紫色は東西で非常に珍重されましたが、
ただこの色を意図的に出すの大変だったようです。
天然の染料が希少で高価だったからです。

古代中国の五行思想では
正色(青、赤、黄、白、黒)を最上とされ、
中間色の紫はそれより下位の五間色の位置でした。

紫を尊んだのは道教のせいで、
南北朝時代に紫の地位は五色の高貴な色とされます。

隋の大業元年(605年)に制定された服色規定で
五品以上の高官に朱か紫の服を着せたそうです。

日本では紫草は昔の技術では栽培が難しく、
「紫色」は高貴で神秘的な色として、
皇族と近縁の者しか着用できない禁色でした。

推古天皇の時代に制定された「冠十二階」
(603年に聖徳太子(厩戸皇子)が制定したとされ、
 頭にかぶる冠の色で位階を表示する冠位制度)
の最高階位は紫です。

平安時代に最も好まれた色は紫だそうです。

古代ヨーロッパでは紫色は貝紫(巻き貝の一種)
“purpura”(ラテン語、プールプラ)の分泌液を
使って染められました。

巻貝1個から採取できる粘液はごく微量で、
服1着の染色に巻貝数千〜数万個を要するそうです。

中世の地中海では染色目的の巻貝の乱獲が進み、
大航海時代までに巻貝はほぼ絶滅したとか。

カエサルのマントや女王クレオパトラの旗艦の帆が
この貝紫に染められていたことは有名です。

染料の高価さもさることながら、
貝紫の染め物に「力が宿る」と信じられ、
多くの権力者が一般の使用を禁じたようです。

「皇帝の子であること」を示す
「ポルフュロゲネトス(「紫の生れの者」の意)」
という言葉があって、これが英語の慣用句、
“born in the purple”(王家の生まれ)
の語源となっているそうです。

でも色が導く連想は時代によって
どんどん変化していくものですよね。

2021年ジョー・バイデン大統領就任式で
宣誓したカマラ・ハリス副大統領は
「紫色」の衣装を着ていました。

米国では紫色に「忠誠」「目標達成への執念」
などの意味合いがあるのだそうですが、
このところ米国で重要な女性たちが
紫色の衣装で公の場に登場することが多いのは、
紫が民主党の「青」と共和党の「赤」を
ミックスした色だからだと言われます。

これからも地域と時代によって
意味合いは変化を続けていくのでしょう。

【紫の天然染料】

日本では紫草の根(紫根)が染料。
ヨーロッパでは主として地中海産の巻貝”purpura”。

【紫の天然顔料】

日本では紫土(シド)として産する酸化鉄赤。

⑭白(White)のイメージ

【波動域】

透明な「白色光」は人間の可視光線全領域
(380〜780nm)の波長をまんべんなく含みます。

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 純粋、神聖、清潔、無垢、明るい、
 平和、自由、善、潔白、
 
・中立的表現のイメージ:
 宗教、未来、雪、うさぎ、白衣、
 看護婦、花嫁、
 
・否定的含意のイメージ:
 緊張、

【中核イメージと色名の語源】

「白」と聞いてまず思い浮かぶのは、
寒い地方なら雪・雪山かもしれません。

あるいは青空に浮かぶ白雲の色。

神聖さ、神々しさ、自由のイメージがあります。

しかし人類史的観点から言うなら、
「白」は太陽の光の色、明るさの色です。
そしてつねに闇の「黒」と対をなします。

光が「あるか、無いか」に焦点があるので、
「昼」と「夜」のようなもので、
中身に関わらない点でも両者は似ています。

日本語の「白(しろ)」は
顕わす意味の「顕(しろ)す」から来ており、
明るくして明白にすることです。
「白」は「明暗」の明からきているわけです。

英語のホワイト(white)の語源は
ゲルマン祖語kweytos(明るい・白い)です。
これも「明暗」の「明」ですね。

フランス語の白はblanc(ブロン)ですが、
英語のblank(空白)やblack(黒)は
この古仏語blancの派生語だそうです。
この場合は白も黒も「有無」の「無」から
来ていることになります。

ちなみに漢字の「白」は
「白骨化した頭蓋骨」の象形だそうです。

【地域的・歴史的イメージ展開】

夜の暗闇が恐ろしいものであるほど、
日が昇り、あたりが明白な状態の白は、
輝かしく、正しく、人にとって望ましい
ポジティブな意味合いを帯びます。

黄色の明るく活動的なイメージに比べると、
白は光の厳かで神聖な面を感じさせます。

英語の “white” は善意・純粋の意味を包含し。
「好ましいもの」を指して「ホワイト○○」
(例:ホワイトリスト)などと言います。

「白」は多くの宗教で神とつながる
神聖な色と見なされたようです。

特に日本の神道は穢れを嫌いました。
神主や巫女の基本の服装は白衣、白袴、
神具の土器は白、神棚も白木造りと白で統一、
徹底的に清浄を重んじたようです。

仏教でも白は大切な色で、
仏陀誕生に由来する白象は重要でした。

白い動物は西洋でも東洋でも神聖で、
神からの使いと捉えられるようです。

キリスト教でも神は光で表わされます。
神は白い玉座に座った様子で描かれ、
キリストが雪の如く真っ白な衣を着て現れ、
白い天使が登場するというふうです。

中国の五行思想で白の方位は西であり、
西方を守る神獣が白虎です。
白虎を尊び、白雉を瑞祥とするなど
白を尊びましたが、服の色としては凶色でした。

一方、古代の日本では白は最高の服色でした。
養老律令の衣服令は白を最高としながら、
白い衣を着られる身分を明記しませんでした。
それは律令が天皇を規律しないためで、
実際は天皇だけが白衣を着用できたのです。

この白を尊ぶことにかけては、日本人は
すこし特殊なところがあるのかもしれません。

『化粧せずには生きられない人間の歴史』の
著書がある石田かおり氏は
その論文『「美白」意識の解釈学的現象学』で、
1990年に日本で造語された「美白」という
概念が女性だけでなく、男性にも広がり、
日本から漢語圏に拡散され始めているそうです。

「美白という美意識が古代から連綿と続いている
ことも考え合わせると、日本人の美白は永遠と
言えるのかもしれない。」と。

【天然顔料】

・最も古い白の顔料は白亜(はくあ):
 日本では法隆寺金堂の壁画の素地など。
・胡粉(ごふん):貝殻を焼いて粉にしたもの。
・素材の漂白が目的なので染料は存在しない。

⑮灰色(Gray)のイメージ

【波動域】

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 落ち着き、控え目、
 
・中立的表現のイメージ:
 曖昧、曇り、アスファルト、ビル、都会、
 
・否定的含意のイメージ:
 陰気、不安、汚れた、疑惑、不正、
 抑うつ、悲しみ、シック、

【中核イメージ】

太古の昔に人々が目にした灰色は何だったか?

まず思い浮かぶのは、
嵐を予感させて襲来する雨雲の色でしょうか?
それともどんより雲に覆われた陰鬱な曇天の色?

どちらともつかぬ、中途半端な、曖昧で不安な感じ。
それが灰色の中核イメージかもしれません。

また灰色は老いを思わせる色かもしれません。
見事な白髪、白髭はめったに見られず、
多くは白髪交じりの灰色だったことでしょう。
活気のない、生気を失った状態を思わせる色…。

あるいは草や木、動物を燃やしたあとに残る
文字通りの「灰」の色だったでしょうか?

それはすべての生命活動を飲み込む色、
生命が最後に還る色を連想させたかもしれません。

「雨雲」「曇天」「白髪(まじり)」「草木灰」
そんなあたりが灰色の中核イメージでしょうか。

【色名の語源】

「灰色」は黒と白の中間色を指す色名なので
広範なグラデーションが含まれるわけですが、
日本語以外は多くの色名を含まないようです。

英語の”grey”(米語は”gray”)は、
ゲルマン祖語”grewa-(灰色)”」から派生した
「色みのない白と黒の間の色」を指す言葉です。

もっとも英語の“grey/gray”は動詞になると
「白髪になる、灰色になる」「歳をとる、高齢化する」
の意味になるようです。

「灰色・鼠色」はもちろん「灰・鼠」の色の意ですが、
これは江戸時代以降の色名で、
それ前の平安時代では「鈍色(にびいろ)」
「薄墨色(うすずみいろ)」が主流だったようです。

鈍とは刃物などが切れなくなる「鈍る」が語源、
薄墨色は墨を薄めたようなやや薄い灰色のことです。

【地域的・歴史的イメージ展開】

「灰色」について憂鬱・曖昧・老い・不正など
ネガティブな印象が先行していた西欧世界では、
灰色のイメージは特に発展・展開しませんでした。

その意味では日本はかなり特殊なようです。

色名に「鈍色」が使われていた平安時代は、
鈍色は喪の色として扱われ、故人との
縁の深さに応じて濃い色を着たそうです。
日常使いに好まれる色ではありませんでした。

変化が起こったのは鎌倉時代です。
禅宗の枯山水の庭や水墨画など無彩色の芸術で
華やかな色から落ち着いた渋い色への
嗜好の変化が起こります。

無彩色に深みや精神性を見出す傾向が生まれ、
室町時代に侘び・寂びの美学が発展します。

「鼠色」とい色名が登場したのは17世紀前半、
江戸時代初期と考えられています。

当時はまだ長い戦乱の記憶が残っており、
火事や火葬などを連想させる「灰」色を嫌って、
「鼠色」という色名が生まれます。
多産の象徴の鼠が選ばれたのかもしれません。

江戸の施政が生み出した町人の豊かさは
幕府が「奢侈禁止令」を出すほどになります。
庶民の贅沢が厳しく取り締まられると、
町民は許可範囲の地味な色(茶色、鼠色、藍色)
の中で最大限の美意識を競いあって、
「四十八茶百鼠」と呼ばれるほどです。

これほど多種多様な灰色が生まれたのは、
その微妙な色合いを見分けてきた日本人の
感性によるのでしょうね。

ちょっと“贅沢禁止令”など想像もできない
現代庶民は羨ましがるかもしれません。(^_-)

灰色を愛した文化は世界でも稀なようです。

【天然染料・顔料】

・灰色に使われる染料の多くはドングリなど
 植物の実に多く含まれタンニン。
 タンニンの処理方法で無彩色か茶色になります。

⑯黒(Black)のイメージ

【波動域】

「黒」は電磁波の可視光線(380〜750nm)以外の
範囲の色ということです。

【言葉のイメージ】

・肯定的含意のイメージ:
 強さ、高級感、クール、シック、かっこいい、
 
・中立的表現のイメージ:
 フォーマル、ファッション
 
・否定的含意のイメージ:
 恐怖、孤独、反抗、暗さ、威圧的、邪悪、
 不吉、悲しみ、絶望感、夜、闇、葬儀、
 死、殺人、

【黒の中核イメージ】

「黒」といえばその原初イメージは
もちろん夜の暗闇でしょうね。

太古の人々にとってのその暗闇の存在感、
真っ暗闇に閉じ込められた恐怖感・無力感は
圧倒的なものだったでしょう。

動物に襲われる恐怖、滑落・転落の恐れ、
完全に無防備な眠りに取り込まれる恐れも含めて
暗闇は最も死に近い状態と意識されたでしょう。

同時に暗闇は庇護も意味したことでしょう。
敵から隠れる物陰、洞窟の中の漆黒の闇、
身を預けるべき闇のパワーも意味したのでは。

「黒」は恐るべき、そして頼るべき暗闇の、
白昼の世界を統べる神の力をも凌駕しうる
闇の権力、悪魔の力の象徴ともなったでしょう。

暗闇の色「黒」の中核イメージは、
「恐怖」「死」「防御・庇護」「悪魔」
といった感じではないでしょうか。

【語源】

英語の“black(黒)”は“blank(空白)”とともに
古仏語“blanc(ブロン:白)”の派生語とされます。
「欠如」「無」の意味から来ているようです。

日本語の「黒(くろ)」は「暗(くら)い」
「暮れ(くれ)る」から来ているとされます。
「玄(くろ)」には奥深さの意味合いがあります。

漢字の「黒」は柬(かん)と火の会意文字とされ、
「柬」は嚢(ふくろ)の中に物がある形で、
下に火を置いて袋の中のものを焦がして、
黒い粉末状の煤(すす)にする意味だそうです。

【地域的・歴史的イメージ展開】

黒は、新石器時代の洞窟壁画の色の1つです。
古代エジプトとギリシャでは冥界の色でした。
死者を悪から護る冥界の神アヌビスは黒犬の姿です。

【画像装入】https://bit.ly/384UKI4

ローマ帝国では「黒」は喪の色であり、
ヨーロッパの多くの国々で何世紀にもわたって、
死、悪、魔女、魔法と関連づけられてきました。

キリスト教では黒は簡素で謙虚さを表す色、
罪を悔い改める色として修道士の色になります。
同時に恐ろしい悪魔の色でもあり、
すべての不吉さを背負うイメージでもありました。

汚れた衣服や安価な染料で染める暗い色は
身分の低い者が身につける色でした。

14世紀後半ヨーロッパで美しい黒を染める
技術が得られると、多くの王族、聖職者、裁判官
など貴族が着用する色として大流行し、
現在のフォーマルな装いの黒が誕生します。

19世紀には英国のロマン派の詩人、ビジネスマン、
政治家が着用する色になり、
20世紀にはファッション性の高い色になりました。

ヨーロッパと北米での調査で、黒が
喪、死、秘密、魔法、力、暴力、悪に関連し、
一方、最も優雅さに関連する色である
という結果が示されています。

日本でも平安中期の一条天皇の時代に
階位を表す位階色の上位が黒になります。

こうして奇しくも東西ともに
貴族の嗜好に見合う美しい黒の登場によって
公式の衣装の色として黒が定着します。

【天然染料・顔料】

・黒土、木炭、松煙。
 植物黒:植物原料を炭化させたもの。
 油煙:油を不完全燃焼させて得た「煤」。